事務所やレーベルの決算を考慮してリリースを計画?

伊藤 彼らはアミューズやビクターの決算を考えてリリース計画を考えるという話も聞きますね。

山口 アーティストなので、一年ごとの会社の決算に合わせて活動はできないですけれど、そういう噂を信じたくなるくらい、スタッフを大切にする気遣いを感じます。

伊藤 桑田佳祐は、大学の同級生のバンド仲間と結婚して、スキャンダルもないですしね。クリーンじゃなさそうでクリーンなんですよね。

山口 お金に汚かったら、絶対こうはなってないですからね。もちろん、十二分に超大金持ちでしょうけれど、「お金持ちほどケチになる」という実例もたくさん見てきたので、桑田さんは尊敬します。こういう生き方は幸せな人生だろうなと。印税が1,000万円ぐらいになったら、自分の力を勘違いして、大事な人を裏切るような輩も多いので、爪の垢を煎じて飲ませたいですね。

伊藤 初めて聞きました“印税1,000万超えたら人を裏切る説”。その話、今度ゆっくり聞かせてください(笑)。

山口 そんな小物の話はしても仕方ないのでは? もう音楽界にいない人の話ですしね。私の懺悔の夜になっちゃいますよ(笑)。あんな奴に下駄履かせて、デビューさせなきゃ良かったってね。

伊藤 いやぁ、それでも聞きたいです(笑)。楽曲に話を戻しますが、「東京VICTORY」は7月下旬ごろから三井住友銀行のCMで流れていますし、最近だとアジア大会&世界バレーのテーマソングとしてヘビロテしています。最初に聴いたときは、なんかサザンにしては“ふつー”だなぁ、という印象を持ったんですけど、聴けば聴くほどにサザンマジックにかかっていくように思います。メロディーだけでもちゃんと力強く、音にも魂を感じるんです。こんなこというと怒られちゃうかもしれませんが、いまのDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション。コンピューターで音楽制作ができるシステム)中心のレコーディングに比べると音が悪いんですよ。なぜなのかはよく分からないんですが、クリアじゃなくってガサガサしていて、でもそこに生きた音がいる。だって、そうは言っても、サザンの音が悪いわけないじゃないですか。だからこれって、僕ら音楽を作る人達への「がんばれよ」っていうメッセージみたいなもので、そこにも魂を込めているように思えて仕方ないんです。考えすぎですかね?

坊主頭のおじさんとトラック運転手の青年との交流を夢想

山口 サザンなりの日本への応援歌なんでしょうね? 東京五輪をどこまで意識しているかはわかりませんけれど、東日本大震災から五輪に向かうという時代性は感じます。でも、こういう歌でも、「妄想分析」できるんですか?

伊藤 もちろん、しますよ!
 おじさんは白髪交じりの坊主頭を撫でながら言う。別に行き先が決まっていたわけじゃないんだけど、ここに戻って来なければいけない気がしていたんだ。“夢”という言葉は、ずいぶん昔に引き出しの中にしまってしまった。もう長いこと思い出すこともない。おじさんは粗末なジャージのズボンと、無駄に派手なアロハシャツを着て、高速道路のパーキングエリアの端のほうで虫と話をしている。時折、長距離トラックが専用の駐車場に入ってくると、おじさんは獲物を見つけるように目星をつける。長岡ナンバーのトラックから降りてきたのはアルビレックス新潟のユニフォームを着た青年。おじさんは当てもないように歩きながら、彼に近づき声をかける。青年はあまりにも無害そうなおじさんをトラックに乗せることにした。助手席で、おじさんは白髪交じりの坊主頭を撫でながら言う。別に行き先が決まっていたわけじゃないんだけど、ここに戻って来なければいけない気がしていたんだ。
 朝日の気配のする方へ向かって5時間走り、陽が昇る一滴前。雨にも似た思い出が新潟の海岸沿いに降る。それは、おじさんが20年前に経験した華やかな時代の後悔で、そのころ感じた故郷への裏切りが、大気中の埃を掻き集めて地上に叩きつけているようだ。青年は黙って大きなハンドルを抱え、ハミングするように歌う。それは「いとしのエリー」だけど「いとしのエリー」ではない。おじさんは何も言わずにその歌を聴き、朝日は1ミリずつ厚みを増して二人の手元をオレンジに焼く。青年はトラックを脇に寄せて一言。よぉおじさん、ここまでだぜ。おじさんはぎこちなく助手席から降りて、短い脚を精一杯伸ばして広いアスファルトに立つ。去り際に、おじさんは白髪交じりの坊主頭を撫でながら言う。別に行き先が決まっていたわけじゃないんだけど、ここに戻って来なければいけない気がしていたんだ。

山口 一つの曲から感化されて、新たな世界を透視する「妄想分析」。ビンテージワインを飲んだ時の、ソムリエみたいですね。楽曲に含蓄があるほど、ソムリエの妄想も広がっていく。作詞アナリスト伊藤涼の妄想分析も、芸の領域ですね。毎回、この妄想分析を富澤きららちゃんというイラストレーターが絵に描いてくれていますよね(外部サイト)? あれも好きですよ。

伊藤 彼女も妄想を楽しんでくれているようです。妄想分析からバラエティに富んだ絵を描いてくれていますが、受け手の創造力を具現化してくれていて、妄想分析家としては妄想不足を反省する材料となっています。

サザンオールスターズ「東京VICTORY」
ビクターエンタテインメント 2014年9月10日発売
通常盤(CD)1,200円、完全生産限定“フレ!フレ!パッケージ”(CD+サザンの“フレ!フレ!”FLAG)1,800円(税抜)
■表題曲に加え、AKB48やDREAMS COME TRUE、奥田民生といった豪華メンバーが出演するミュージックビデオが話題を呼んでいる新曲「天国オン・ザ・ビーチ」、サッポロ プレミアムアルコールフリーCMソング「パリの痴話喧嘩」を収録した1年ぶりのシングル。
■「東京VICTORY」作詞・作曲/桑田佳祐
■オフィシャルサイトURL https://www.sas-fan.net/

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2014.08.31(日)
文=山口哲一、伊藤涼