ある家庭の午前2時22分の風景が浮かぶ

山口 「GOLDEN GIRL」からは、どんな「妄想分析」が浮かびますか?

伊藤 夜中に目が覚める。1階のリビングからは微かにパパとママが話す声が聞こえてくる。11時ごろにはベッドに入って携帯を弄っていたけど、いつの間にか寝てしまった。その時は、パパはまだ帰ってきてなかったから、「あの後パパが帰ってきたんだぁ~」と心がもうひとりの自分のようにいう。時計をみると2時22分。
 最近、パパは忙しくて帰りが遅い。泊りの仕事もある。そんな日はママが機嫌が悪くて、夕食の前も後もずっとイライラしているのでこっちが気を遣う。それにママが愚痴りながらパパの悪口を言うのがイヤだ。だけど、なんだかママも可哀そうだから、パパの悪口に同調に似たリアクションをする。そんな自分もイヤだ。ちょっと前まではラブラブすぎる親で、こっちが恥ずかしいくらいだったのに……。
 トイレに行かなくてはいけない下腹部に気づく。正直、このまま寝られてしまうならベッドから出たくないけど、すぐに限界を迎えそうな雰囲気だ。渋々とベッドから滑り抜け、ゾンビが彷徨うような恰好でドアまで歩く。ドアを開けるとママの声が大きくなって、それが泣き声であることに気づく。階段をそっと下りていくと2人の声はどんどん大きくなって、言い争っているのが分かる。舌の上に苦い唾が流れてくる。それを歯でこそぐようにし喉の奥に追いやるが、口の中は不味い液体で覆われる。そっと下から4段目の階段に座って2人の声に耳を立てる。浮気とか離婚とか、まるでドロドロしたドラマの中のような話が聞こえてきて、あのドアの向こうにいるのは本当に自分の親なんだろうか? そうじゃなければいいのに、と思う。
 自分の部屋にもどり、部活の練習用のジャージに着替える。今度は普通に階段を下りて、玄関でジョギング用のシューズを履く。まだ2人の声は聞こえるけど、もう耳に入ってこない。外にでると白い息が大量に吹き出し、まるで体の中の毒が噴き出たようだ。ゆっくりと一歩を踏み出し、また一歩、また一歩。そのまま蒸気機関車の車輪の回転数を上げていくように走り出す。そうだ! もうすぐ最後の大会、それに集中しよう。

山口 青春小説の趣ですね。

いきものがかり「GOLDEN GIRL」
エピックレコードジャパン 2014年11月12日発売
1,165円(税抜)
■2014年に入って3枚目のリリースとなるシングルの表題曲は、深田恭子が弁護士を演じるTBS系ドラマ「女はそれを許さない」の主題歌。カップリングとして収められた「未来予想図Ⅱ」は、言わずと知れたDREAMS COME TRUEの名曲のカヴァー。
■「GOLDEN GIRL」作詞・作曲/吉岡聖恵 編曲/亀田誠治
■オフィシャルサイトURL http://ikimonogakari.com/

2014.10.30(木)
文=山口哲一、伊藤涼