つまらなくもないし、ハッピーでもない毎日

今月のオススメ本
『壇蜜日記』壇蜜

「誕生日。いつも一番一緒に過ごしたい人に一番冷たくされる日。慣れたけど」(2013年12月3日)。現代日本のミューズが毎晩お風呂に入りながら執筆した、約一年間の日記。それは本文の言葉を借りれば、「常に目に見えない誰かに謝っている」「恨み深い日記」。
壇蜜 文春文庫 570円
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 29歳で芸能活動を本格始動させ、またたく間に日本を代表するセックスシンボルとなった壇蜜。女優としては『花子とアン』に出演し『アラサーちゃん 無修正』で地上波ドラマ初主演、ラジオにCMにと活躍の幅を広げる彼女は、「書く人」でもある。エッセイを複数連載し、ブログもほぼ毎日更新。そして、そのブログとは別に毎日、日記を綴っていた。

「毎日書くことが負担にならない程度の長さで……と思っていたら、一日分の日記がだいたい240字から300字になりました。どうやらこのサイズが、私にとって一日の大きさみたいです」

 昨年秋から今年の夏までの日記が、『壇蜜日記』として一冊にまとまった。ですます調を排したシャープな文章には、普段の彼女が表に出すまいと決めている、弱音や本音も顔を出す。

「メディアで発信する言葉は、あくまで“よそ行き”のもの。人の気に触ったりしないよう、大げさすぎるぐらい責任を感じながら、自分の感情にブレーキをかけています。でも、日記の中だったら許されるかな、と」

 華やかさとはほど遠い、静かな日々だ。一人暮らしの部屋で「毛の無い猫」と昼寝をし、熱帯魚の世話をして、通信販売で薄毛のためのシャンプーを購入する……。その日常には常にほんのりと、悲しみが横たわる。

「時には大きな悲しみもありました。でも、日記を書くことで少し、落ち着いたんでしょうね。悲しい思い出も300字のサイズに収めることで、他と変わらない“一日”に変えることができたんだと思います」

 時おり男性が部屋のドアを叩き、去っていく。心を大きく波立たせることなく淡々と、背中を見送る。その視線は、あきらめにも似ていて。

「人によっては“こんなにつまらない人生を送ってるのか”と思われるかもしれません(苦笑)。自分で点数を付けるとしたら、毎日が65点。つまらなくもないし、ハッピーでもない。それ以上でも、それ以下でもないんです。私なんかの人生、うらやましくなくて当然であってほしいんですよ」

 そのスタンスが、読者の心を軽くするのだ。満点を目指す人生ではなく、「65点」を淡々と刻んでいく人生の意義を、この本は教えてくれる。

「それでいいのかもなって思ってもらえたなら、この本の出しがいがあるなと思いますね。自分が当たり前だと思っていたものは、色眼鏡で見ていたものかもしれない。もしもそんなふうに、気付けてもらえたらなって」

壇蜜 (だんみつ)
1980年秋田県生まれ。2010年にグラビアアイドルデビュー。13年に映画『甘い鞭』に主演、日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。著書に『エロスのお作法』『はじしらず』などがある。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2014.12.04(木)
文=吉田大助

CREA 2014年12月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

贈り物バイブル2014

CREA 2014年12月号

おいしいものからとっておきの名品まで
贈り物バイブル2014

定価780円