最強女性バディが 女の幸せの多様性を突き詰める

講談社 1,650円。

今月のオススメ本『ピエタとトランジ〈完全版〉』

 芥川賞受賞後第一作『おはなしして子ちゃん』(講談社)に収録された「ピエタとトランジ」が連作長篇になった!

 「メロンソーダ殺人事件」「海辺の寒村全滅事件」「死を呼ぶババア探偵事件」「傘寿記念殺人事件」など、各章タイトルになっている12の事件名がまたそそる。

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 ピエタとトランジの出会いは、高校二年の春だ。

 天才的な洞察力を持つトランジは、転校早々、ピエタの彼氏が殺された事件を解決する。

 そんなトランジに〈変で面白くてすごくいい子〉と惚れ込むピエタ。

 ふたりはコンビとなって、数々の難事件を解決していく。その記録を書き留める役のピエタの語りで物語は進む。

「小さいときからミステリーのドラマが大好きでした。主人公の周辺でバタバタ人が死にますよね。

 この作品は最終的に人類が滅亡する物語にしようと決めていたので、そのためには、トランジに名探偵たちのような〈周囲で事件を多発させる体質〉を背負ってもらえばいいなと考えたんです」

 ふたりは別々の大学に進学し、卒業後ピエタは医者に、トランジはそんな自分の体質を憂いながら、探偵になる。

 そう、お察しの通り、

「ふんわりと、シャーロック・ホームズを下敷きにしています。

 このふたりにとって、恐ろしい人殺しは脅威ではないけれど、女性の幸せや生き方を、型にはめて押しつけてくる抑圧や不条理は宿敵。

 ホームズならば、モリアーティのような生涯にわたる敵役が必要だと思ったので、それをピエタと同じ寮生だった森ちゃんや、〈世界母子会〉の人々に担ってもらいました。

 女の敵は女という構図が描きたかったのではなく、私の中で悪役は花形なので(笑)、いちばんいいその役どころを男性に渡したくなかったからです」

 小説にはめずらしく、挿絵がいくつも入っていて印象深い。

「編集さんが、なにかご褒美があった方が原稿がはかどるだろうと、私が大好きなマンガ家の松本次郎さんに頼んでくださったんです。

 原稿を送るたびに、松本さんから『ピエタの身長はどのくらいか、どんな髪型か、どんな服装か』と質問されて、これまでになく容姿にまつわる描写の多い作品になりました」

 数々の難局をかいくぐり、ふたりはやがて中年になり、老境に入る。

「“人生最良の時期”“自分は無敵”だと思える時期は若いときだけの特権ではないはずなのに、女性はある年齢になると家庭を作ったり子どもを産んだりすることが求められて物語からはじかれてしまう。

 そのことにずっと納得がいかなくて。そうではない物語にするつもりでした」

 確実に年を取りながら、なお最強の女性二人組である彼女たちはまぶしいほど。

 既存のバディものとは、ひと味もふた味も違う冒険譚だ。

藤野可織(ふじの かおり)

1980年京都府生まれ。2006年「いやしい鳥」で文學界新人賞を受賞しデビュー。13年「爪と目」で芥川龍之介賞、14年『おはなしして子ちゃん』でフラウ文芸大賞を受賞。著書に『ファイナルガール』『ドレス』『私は幽霊を見ない』など。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2020.07.01(水)
文=三浦天紗子

CREA 2020年6・7月合併号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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