いよいよ「日本最強の山城」へ
長屋門を過ぎると、周辺は徐々に里山の風景へと移り変わっていく。植村家の菩提寺である宗泉寺付近から未舗装の山道に入り、いよいよ登山スタートだ。
すぐに「日本最強の山城」が一端を見せつけてきた。高取城跡へと続く大手道がくねくねと曲がっている。これは「七曲り」と言われ、攻めてきた敵兵が登るのに時間を要するうえ、上からの視界は良好で敵に横矢を掛けたり、樹や竹を切って敵の攻撃を防ぐことができる構造になっている。さらに途中にある沢に架かる橋は、有事に落とすことで攻めにくくしたそうだ。
さらに登りが続く。勾配がきつい坂道は「一升坂」と呼ばれ、築城のため石材を運ぶ人夫には重労働になるため米一升の手当てをつけたと伝わる。
一升坂を登りきると、「猿石」がひっそりとたたずむ。名前のとおり猿のように見えるが、じつは飛鳥時代に造られたとされる石像で、渡来人をかたどったもの。城の石垣に転用するために運ばれてきたとか、郭内と城内の境界石だとか諸説あるようだ。
城跡内への入り口のひとつである二の門跡から入っていく。すぐ近くには国見櫓(やぐら)が建っていた場所があり、ここは道中で一番の展望スポット。奈良盆地や金剛山地を一望できる。高取城の建物は明治時代の廃藩置県後に解体されたが、周囲約3kmの城内には今も石垣が残っている。
城内最大の見どころは、約12mの高さを誇る本丸天守台の石垣だ。かつては三層の天守がそびえていて、強度を増すために「算木積み」という石材の組み方を採用しているという。現在の苔に覆われていた石垣の姿は威厳がある。これを人力で組み上げたとは……とただただ驚く。
昼頃に山頂の本丸に到着。高取城跡での昼食は、郷土食の柿の葉寿司がぴったり。柿の葉寿司の起源は諸説あるが、紀州(和歌山県)の漁師がサバを塩で締めて吉野地方へ売り歩いたのが始まりというのが一説だという。山頂で食べる柿の葉寿司、うまい!
目の観音様「壷阪寺」など帰りも見どころ満載
帰りは登りとは別ルートの壺阪口門から下っていくと、岩肌に無数の仏様が彫られた「五百羅漢」や眼病に霊験あらたかな壷阪寺などの見どころも。壷阪寺は西国三十三所観音霊場の第六番札所で、室町時代に再建された三重塔や礼堂は、国の重要文化財だ。
鉄道駅スタートで、街歩きと山歩きを気軽に楽しめて、さらにその道中に歴史がぎゅっと凝縮された貴重なルートだった。低山のため真夏だと暑すぎるので、春と秋がおすすめ。
3月には町家に雛人形が飾られる「町家の雛めぐり」、紅葉がきれいな11月下旬には「たかとり城まつり」が開催される。イベントに合わせて訪れるのもよさそうだ。
