「艶」、「色気」、「諦観」…岡田将生の高座の演技がスゴい

 このドラマを語る上で絶対に外せないのが、俳優陣の落語シーンのクオリティの高さです。伝統芸能を描く上で、役者の「芸」のクオリティは生命線。今作では落語監修に柳家喬太郎師匠を迎え、岡田将生さん、山崎育三郎さん、そして与太郎役の竜星涼さんは、文字通り「芸」を一から叩き込まれています。その「なりきり度」は驚愕レベル。単なるセリフとしてではなく、本当に落語を習得し、その魂を込めて高座に上がっています。

 岡田さんの高座は、役柄的に最初こそ硬さが残るものの、物語が進むにつれて鬼気迫る成長を遂げます。八雲が掴んだ「艶」や「色気」、「諦観」がにじみ出てくるのが分かります。

 特に、八雲の代名詞となる大ネタ「死神」の、静寂の中に狂気と魔性が宿る高座は、視聴者に「この役者は本当に芸を極めた」と錯覚させるほどの説得力がありました。

 師匠の芸に憧れ、追いつこうともがく若手時代から、孤高の境地に至るまでの変遷を、岡田さんは圧倒的な表現力で演じ切っています。

 山崎育三郎さんの助六は、落語の世界にどっぷり浸かった人間だけが持つ、天衣無縫な明るさと破天荒さ、そして客を爆笑させる天性の才能が爆発しています。

 彼の高座は、本当に楽しそうで、見ている私たちまで笑顔になるほど。しかし、その裏側にある「芸への執着」と「不器用な生き様」こそが、悲劇的な運命を導いてしまいます。それもすごくわかる……!

 明るい高座の後に見せる、ふとした瞬間の陰りや孤独。山崎さんは、そのコントラストを鮮やかに演じ分け、まさに「落語の申し子」というキャラを完璧に成立させました。

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