食後のデザートは飾り気ゼロなおまんじゅう!

 さて食後のデザートには、素朴もいいところなおまんじゅうを。

 先に東北を旅したと書いたけれど、岩手は大船渡市の道の駅で買ってきたものだ。このあたりはあわびにほたて、さんまにわかめなど魚介類が大変有名なところで、道の駅でもずらりと豪華に海産物が並んでいたが、私はどうにもこの飾り気ゼロなおまんじゅうに惹かれてならなかった。

 原材料は小豆、小麦粉、砂糖に水あめ、膨張剤とシンプルこの上ない。なんだか「我が家で作ったのをそのまま持ってきました」という感じで、ほほえましかった。

 軽くふかし直し、ほうじ茶と一緒にいただく。うん、おいしい。誤解をおそれずに言えば、おいしすぎなくて、おいしい。甘さは控えめ。ヘルシーかつ、砂糖が高価だった頃の名残かもしれない。皮もよりふんわり作ろうと思えばできるけれど、あえてしてない感じがある。かつての日本ではあちこちで、こんなおまんじゅうが食べられていたのだろう。

 朴実(ぼくじつ)な味わい、なんて言葉が頭に浮かぶ。素朴で堅実な、あるいは実直な味わい。なかなかこういう味は現代日本だと、自炊以外で手に入れることは難しい。日常の軸とすべきは本来こういうものではなかったのか、なんて自分に改めて問うてみる。

 今月は最後に、1冊の本をおすすめしたい。『あたらしい日常、料理』(山と渓谷社)、著者は料理家でエッセイストの藤原奈緒さん。ご自身の料理を突き詰めつつ、「ごはん作りがしんどい」と悩む人の気持ちに寄り添い、どうしたらより気楽に、かつ楽しく日々の料理を続けていけるかを考えてきた人だ。

 レシピに挟まれるエッセイの中の、「いかに頭を使わずに料理するかが大事」「人と同じじゃなくていい。わたしはわたしの『おいしい』を大事にしていい」「毎日の料理は75点ぐらいでいい」といった言葉のひとつひとつが力強い。読むうちに、自分のために料理することの良さと面白さが鮮やかによみがえってくるような感触があり、この本自体が滋養に満ちたスープや煮込み料理のようにも思えてくる。

 「ちゃんと作ることだけが料理じゃない。今できることをしたらいい。そのうち気力がわいてきたら、もう少しだけできることが増えてくる」は、料理以外にも通じる生活の真理。うん、そうだよね、とひとりページに向かって相槌を打った。

 レシピの細かい部分における言葉選びと表現にも、「どうしたら作りやすいか、イメージが浮かびやすいか」といった丹念な気配りが感じられてくる。藤原さんのライフエッセイ的な面も強く、ひとりの人間の生きる姿を描いた純粋な読みものとしてもおすすめしたい一冊だった。

白央篤司(はくおう あつし)

フードライター、コラムニスト。「暮らしと食」がメインテーマ。主な著書に、日本各地に暮らす18人のごく日常の鍋とその人生を追った『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)、『台所をひらく 料理の「こうあるべき」から自分をほどくヒント集』(大和書房)、『はじめての胃もたれ 食とココロの更新記』(太田出版)がある。
Instagram @hakuo416

Column

白央篤司の帳尻あわせ食日記

外食が続いて栄養バランスが乱れてしまった、冷蔵庫の余り食材や消費期限が迫る調味料の使い方がわからない…体や台所をすっきりさせる“食の帳尻あわせ”のヒントを、フードライター・白央篤司さんが日々の食体験とともに綴ります。