外食が続いて栄養バランスが乱れてしまった、冷蔵庫の余り食材や消費期限が迫る調味料の使い方がわからない……体や台所をすっきりさせる“食の帳尻あわせ”のヒントを、フードライター・白央篤司さんが日々の食体験とともに綴ります。

 今回の“帳尻あわせごはん”は、旅行から帰った後に飲みたい、体の疲れに効く“自作エナジードリンク”です。


白央篤司さんを一瞬で虜にした、明石の「たなか屋」

 「そうだ、しっかり休もう」と決めて、明石へ向かった。

 この数カ月はめずらしく仕事が途切れず、くたびれ感が心にふり積もっていた。忙しい時期ほどちゃんと時間を作って休まなきゃな……なんて思いつつインスタを見れば、大好きな飲み屋の「たなか屋」さんが最高においしそうなつまみの数々をアップしている。

 兵庫県の港町・明石にあるお店だ。衝動的に周辺のビジネスホテルを検索すると、1泊8千円の部屋があるじゃないか。隣県の大阪、そして京都の高騰を思うと、数年前と変わらない値段に心が和んだ。スケジュールを見たら、頑張れば3日間ほど空けられそう。もうじきあの恐ろしい炎暑もやってくる。風の気持ちいいうちに明石を歩きたい、「たなか屋」さんで飲みたい……! 「2泊で予約」を押してしまった。

 JR明石駅を降りて海のほうへ4分も歩くと、「たなか屋」さんのある商店街に着く。商店街の名が「魚の棚(うおのたな)商店街」、なんてまた素敵な名前なんだ。

 「たなか屋」さんを知ったのはだいぶ昔の『dancyu』から。明石にすごい立ち飲み店があるぞ、という熱のこもった特集記事で、取材者のワクワク感、「こんないい店を伝えられてうれしい!」という興奮が文章と写真から濃厚に漂っていて、引き込まれたのだった。

 9年前にはじめて訪ねれば、カウンターには大皿が並んで魅力的な肴がぎっちり。黒板には豊富に「きょうのつまみ」がつづられている。「まえもん」と称される、明石の海(つまり目の前の海、前もん)で揚がった魚はもとより、それらに手をかけた、料理好きの創作欲とセンスが感じられる一品があれこれと。品書きを読んでいるだけで、尋常じゃなくテンションが上がるのを感じた。端的に言って味も居心地も申し分なく、一発で店の虜(とりこ)になってしまったのだった。

2025.06.20(金)
文・撮影=白央篤司