この記事の連載
キニマンス塚本ニキさんインタビュー【前篇】
キニマンス塚本ニキさんインタビュー【後篇】
「飛び恥」「頭脳流出」…世界で注目されるキーワード

――紹介されている単語の話を少し。印象的なものだらけですが、20ページの「flight shame(フライト・シェイム 飛び恥)」って表現がまず面白い。近距離での飛行機利用に関して使われるようですね。
ニキ もともとヨーロッパで生まれた言葉です。あちらは地続きだから列車など、CO2消費の少ない移動手段がいくらでもあるのに、日帰り出張で飛行機に乗るのはどうなのという批判が背景にあったようです。ただ日本人が海外に行くには、基本的に飛行機じゃないと……(笑)。
――「環境を考えて、わが社は出張をすべて船での移動にします」は難しいですね(笑)。
ニキ 環境のために最初から完璧を目指すのは、非現実的で大変。国によってもいろいろ話は変わるというか。かといって何も努力しなくていい、というわけでもない。「飛び恥」の広がりが欧州の航空業界に波紋を呼んだように、個人の意識変容が社会的な変化を作れる事例はいくつもあるんです。
――34ページの「brain drain(ブレイン・ドレイン 頭脳流出)という言葉。人材がよりよい環境と待遇を求めて海外に移住する、という内容は、トランプ政権のアメリカがまさにそんな状況のようですね。
ニキ 実は日本でもすでに起きている現象かもしれません。海外に永住する日本人は年々増えていて、その6割が女性らしいです。なぜそうなっているのか、興味深い。
日本から輸出されてる概念もいろいろあるんですよ。よく言われるのは「わびさび」とか「生きがい」とか。茂木健一郎さんの「IKIGAI」は何年も前から海外の書店のベストセラーコーナーに置かれています。日本でも自己啓発書などで「purpose」はキーワードになっていますね。「あなたのパーパスを見つけましょう!」なんて感じで。「生きがい」と「purpose」がイコールかは微妙なところですが。
――微妙なニュアンスの違いがあるんですか。
ニキ 例えばですけど、日本式の「Bento(弁当)」って今、海外でもレシピ本がいろいろあるぐらい人気です。ライスボールにエッグロールが入って、オクトパス・ソーセージが入ってるのが、ジャパニーズ・ビューティフル・ベントー(笑)。ニュージーランドの学校では、サンドイッチにリンゴとポテトチップスを添えた「ランチボックス」が一般的です。どちらも要するに、「携帯昼めし」だけど、弁当とランチボックスは似てるようで違いますよね、イコールじゃない。
――そのあたりのニュアンスの違い、実相の違いを伝える、説明するのがニキさんの仕事のひとつなわけですね。言葉の持つニュアンスを感じる上で、ニキさんが考えた例文もすごく参考になりました。
ニキ 単語それぞれを活かせる例文を作るのは、大変だったけどやりがいもありました。この本って例文と、ジャーナリストの竹田ダニエルさんとの対談以外は日本語なわけです。だから中学生ぐらいから読めると思うし、「英語まったく分からないけど、英語圏の人が何考えているか知りたい」と思う方や、「世界情勢に関心はあるけど難しい本は読みづらい」という方にも読んでもらいたいですね。
2025.09.03(水)
文=白央篤司
撮影=平松市聖