この記事の連載
キニマンス塚本ニキさんインタビュー【前篇】
キニマンス塚本ニキさんインタビュー【後篇】
「シュリンクフレーション」「自覚なき差別」……日本でももっと話題になってほしいキーワードも

――日本もこうなったらいいのに、というヒントもいろいろ。49ページの「shrinkflation(シュリンクフレーション)」は、いわゆるステルス値上げ(※価格はそのままに量やサイズを減少させること)で、解説欄にはフランスが消費者への透明性確保のため、そうしてる場合は表示義務を課したとありました。
ニキ 日本だと、お弁当の容器が底上げされているものとかありますね(笑)。数口分の食材よりも、このプラスチックを二重にするコストのほうが低いのか……なんて思ったり。
――70ページの「microagression」(マイクロアグレッション・自覚なき差別)」という言葉は、耳にする機会が増えてきたように感じます。ここでは例文に「ハーフ顔、うらやましい」と言われるケースがありました。ご自身の経験からでしょうか。
ニキ そうですね、あえてここは“誉め言葉”だけを並べたんです(他の例文:「ゲイの人っておしゃれだよね」「障害に負けずに働いててえらいね」)。「愛のあるいじり」と言われるような表現も、言われた側が苦痛を感じるのであればマイクロアグレッションになります。
――「いじり」って、英訳するとどうなります?
ニキ Teasing、ですかね。これだと「からかい」になるかな。いじりってお笑い文化から来てるんでしょうか。マイクロアグレッションと聞いて白央さん、何か思い当たります? 自分も気づかずやってきてしまったな、というような。
――そうですね……「○○に似てるね!」とこれまで無邪気に他者に対して言ってきてしまったな、とあるとき反省しました。「この人に似てるなら絶対にうれしいだろう」と勝手に決めつけてたんです。
ニキ それ! 私も結構やってきたんです。でも「あれ、もしかしたらよくなかったかな……」と後から反省したり。ただ、それを一律「やめましょう!」と言うのも微妙かもしれませんね、信頼関係があって安心していじり合える場合もあるし。私もさんざん「マツジュンに似てる」って言われてきましたけど、全然イヤな感じはしないですね(笑)。
もともと「いじられ」やすい、マイクロアグレッションに遭いやすいマイノリティの人たちから、こういう言葉って発信されてきたのかもしれない。これまで周りに合わせなければいけなかった当事者の訴えがもっと尊重されることで、社会の意識が少しづつ変わっていけばいいなと思います。

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キニマンス塚本ニキ(きにまんす・つかもと・にき)
1985年東京都生まれ。翻訳者、通訳、ラジオパーソナリティ。9歳からニュージーランドで育つ。オークランド大学を卒業したのち日本に帰国し、フリーの英語通訳・翻訳者として働く。2020年、TBSラジオ「アシタノカレッジ」パーソナリティに抜擢。現在はYouTube番組「ポリタスTV」MCをはじめ、報道番組のコメンテーターやコラムニストとしても活動する。
X:@tsukaniki85
Instagram:@kittenmouth
聞き手・構成 白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター、コラムニスト。「暮らしと食」をメインテーマに執筆する。主な著作に「にっぽんのおにぎり」(理論社)、「自炊力」(光文社新書)、「はじめての胃もたれ」(太田出版)などがある。
https://note.com/hakuo416/n/n77eec2eecddd

2025.09.03(水)
文=白央篤司
撮影=平松市聖