この記事の連載

 多様なスタイルの旅が浸透した今、書店にはありとあらゆるタイプの旅行記が並んでいるが、ここまで後ろ向きな旅行記は他にないのでは?

 『カトマンズに飛ばされて 旅嫌いな僕のアジア10カ国激闘日記』は、10代の頃からミュージシャンを生業としてきた古舘佑太郎さんが32歳でバンドを解散。人生に行き詰まったなかで、先輩ミュージシャンのサカナクション・山口一郎さんに「カトマンズに行け!」と命じられ、日本から追い出されるようにアジア9カ国を旅した記録だ。

 潔癖症で旅嫌いの彼が、初めてのバックパッカー旅で悪戦苦闘。トラブルに次ぐトラブルに翻弄されながらも必死で旅を続ける姿に、ページをめくる手が止まらなくなる! 旅先での行き場のない叫びが聞こえてくるような、エモーショナルでライブ感溢れる旅行記を書き上げた古舘さんに、今回の旅について話を聞いた。

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数日後、銀行口座にお金がドンと振り込まれて

――そもそもの旅に出るきっかけは、サカナクションの山口一郎さんですよね。

 そうです。山口一郎さんと出会ったのは、かれこれ10年以上前。The SALOVERSって僕の最初のバンドの曲を気に入ってくれて、そこからなにかと応援してくださるようになったんです。僕が2度目に組んだTHE 2というバンドのラスト3年間は、プロデュースもしていただいていました。なので、THE 2が解散することになったとき、真っ先に報告に行ったんです。怒られるだろうなーと覚悟してライブ前の楽屋に会いに行ったら、開口一番「カトマンズに行け」と言われて、エッ?って。最初は意味がわからなかった。

 当時の僕は、カトマンズがどこにあるのかも知らなくて、オーストラリアにあるのかなと思ってたぐらいなんですよ。ひとまず、適当に返事して、一郎さんが忘れるのを待とうと思ってたんです。でも、ライブの後もガッツリその話になって。「とにかく俺の金で行け。自分の金で行ったらお前は自分の興味のあるところへ行って、楽をするのが目に見えてる。それじゃあダメだ。人の金で行きたくないところに行け」と言われて……。数日後、銀行口座にお金がドンと振り込まれていて、逃げられなくなった(笑)。

――山口さんも相当エキセントリックです(笑)。当時の古舘さん自身の状況としては、バンドが解散して目的を見失っていたような……?

 目的を見失うというより、もう、ここらで終わってもいいかな?ぐらいの心境でしたね。18歳でCDを出して、32歳まで10年以上も音楽にしがみついてきたけど、思うような結果も出せず、結局2度目のバンドも解散させてしまった。もう引き際だ、きっぱり音楽をやめよう、人生リセット!ぐらいの感じでした。

――そこから旅に出るまでは早かったんでしょうか?

 バンドの解散ライブが2024年の2月22日にあって、3月1日に日本を出発したので、かなり早いですよね。というのも、本当に行きたくない旅だから早く終わらせたかったんですよ。どのみち行かないといけないなら、早く出たら早く帰れるからって。バンドが終わって最速の3月1日の飛行機のチケットをとって、あれこれ考える暇もなく、あわてて準備をして飛行機に飛び乗りました。

2025.04.04(金)
取材・文=井口啓子
写真=深野未季