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毎日とんでもない蕁麻疹が出続けた

――そんな状況にもめげず、タイからカンボジア、ベトナム、ラオス、中国、バングラデシュ、そしてカトマンズのあるネパールから、さらにインド、スリランカへと、激闘の旅を続けていきます。アジア9カ国をめぐることも最初から決めていた?

 いや、出発する前はタイからカンボジアに行くことしか決めてなくて。そもそも最初はインドからネパール入ろうと思ってたんです。でも旅に詳しい人に「いきなりインドはやばい。お前じゃ絶対ムリだ」って言われて、まずタイに入って、ネパールめぐってインドに行く逆のルートに変えました。これが結果的に良くて、もし最初にインドに行ってたら、絶対にカトマンズにも行かず、すぐに逃げ帰ってたと思います(笑)。

 飛行機はとりあえずタイと日本の往復チケットと、タイからカンボジアのチケットしかとってなかったので、旅程はまっさらでした。タイに着いてからどうしよう?って。とりあえずバンコクから逃げたくて、サメット島というリゾート地に行って、そこでちょっと奮起して、飛行機をやめて陸路でカンボジアに入ろうとしたら、今度はビザが必要になって大使館に何度も通うハメになって。やっとの思いでカンボジアに行ったら行ったで……。

――アンコールワットツアーが肌に合わなすぎて体調が悪くなったり、午前4時にプノンペンに着いてゴッサムシティのような街を彷徨ったり、欲しくないネックレスを買わされてしまうくだりは、失礼ですが笑ってしまいました。

 今思えば笑い話なんですけど、そのときは「逃げ出したい」しかなかったですね。とりあえず隣のベトナムのホーチミンに逃げて、調べたら統一鉄道という列車でベトナムを横断してハノイまで行けるから、それでハノイに行って、バスで死の陸路といわれるラオスへの国境を越えて――。着いた先でこの次どうしよう?って調べながら行き先を決めていた感じでした。

――そんな旅の経験値を重ねて、潔癖症だった古舘さんもいつしか手を洗わず素手でダルバートを食べるまでになります。

 潔癖症って精神的なものだと思うのに、抵抗感なのか、最初は毎日とんでもない蕁麻疹が出続けたんですよ。今思えば、自分の中の毒を出してたようなものなのかもしれない。体が適応するため、僕が変化を遂げるために必要な過程だったのかなと思います。体って不思議ですよね。

2025.04.04(金)
取材・文=井口啓子
写真=深野未季