この記事の連載
古舘佑太郎さんインタビュー【前篇】
古舘佑太郎さんインタビュー【後篇】
「深夜特急」も「沢木耕太郎」も知らなかった

――バックパックの旅自体はめずらしくありませんが、潔癖症で旅嫌いのミュージシャンが、口座に旅費を振り込まれて有無を言わさずカトマンズに飛ばされるって絶対ない。その設定だけでおもしろすぎます!
いや、おもしろいと思う時点で僕よりすごい、旅の上級者ですよ。僕は旅自体、もともと本当に興味がなくて。バンドのツアーで日本はあちこち行きましたが、それは仕事だし、他のメンバーはツアーのついでにご当地のものを食べたり、散歩したりを楽しんでるけど、僕はそういうのもまったくしない。一度だけ18歳のときにひとりでニューヨークに行きましたが、雪がすごくて英語も喋れないし、一週間ホテルの部屋にこもってました。本当に失礼なんですけど、あまりに旅に縁がなかったので、「深夜特急」という言葉も「沢木耕太郎」さんという人物も知らなくて。そんな人間なので、最初は「早く帰りたい」しかなかったです。
――実際、古舘さんはタイに着いて早々、不安に駆られて注文した料理も食べずにレストランを飛び出したり、過呼吸になったり。本当にカトマンズまで辿り着けるの?とヒヤヒヤさせられます。
やっぱり初っ端がピークでしたね。僕的には最初はSNSでも「ちょっと旅に出てきます」という感じに書いていて、行き先も書かなかったし、最悪一週間で帰ってもいいぐらいの逃げ道を作ってたんです。なんなら逃げ道が僕の唯一の帰り道だと思っていて。でも、バンコクに入った初日の夜、一郎さんが生配信番組で僕が2カ月間のアジアの旅に出たことをバラしちゃった。ここから2カ月は絶対に帰れない。終わった……って、退路が断たれた閉塞感がヤバかったですね。
2025.04.04(金)
取材・文=井口啓子
写真=深野未季