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取り返しがつかないぐらい自分のことが認められない状態だった

――嫌でしょうがなかった旅が日常になったと感じたのは、どの辺りでしたか?

 分岐点として大きいのは、やっぱりカトマンズに着いたときですね。ちょうど出発して1カ月の折り返し地点でカトマンズに降り立ったとき、自分の中の精神的変化がでかくて。僕は昔から自己肯定感が低くて、自分がやってきたバンドとか、いろんな仕事に対して、胸を張れるタイミングはあったはずなのに、ずっと自分で自分を認められなかった。本当に謙遜ではなく、自分のことが好きじゃなくて、取り返しがつかないぐらい自分のことが認められない状態だったんです。

 そんなどん底から100%受け身の旅が始まって、とりあえず「今日の宿をどうするか」みたいな目の前のことに必死で向き合ううちに、だんだん自分の意志で前に進めるようになった。カトマンズに着いたとき、カトマンズの景色と自分の心が重なって、ここに来られたのは自分をちゃんと信じられたからなんだって、初めて自分を認められた。これまでの僕は、ずっと他人の心の中に「正解」や「価値基準」があると思ってたけど、自分の中に全部あった。そう思えた瞬間、「行かされてる旅」が「自分の旅」に変わったんです。

後篇へ続く

古舘佑太郎(ふるたち・ゆうたろう)

1991年4月5日生まれ。東京都出身。2008年、バンド「The SALOVERS」を結成し、ボーカル・ギターとして活動スタート。2015年3月、同バンドの無期限活動休止後、ソロ活動を開始。2017年3月、新たなバンド「2」を結成。2021年6月に活動休止し、2022年2月22日にバンド名を「THE 2」に改め再開。2024年2月22日に解散。俳優としては、2014年、映画『日々ロック』でデビュー。以降、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』、NHK大河ドラマ『光る君へ』、映画『ナラタージュ』などに出演。主演映画に『いちごの唄』『アイムクレイジー』などがある。

『カトマンズに飛ばされて 旅嫌いな僕のアジア10カ国激闘日記』

定価 1,980円(税込)
幻冬舎
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次の話を読む「生きる気力が感じられなくて」慶応在学中にメジャーデビュー→32歳でバンド解散。ミュージシャン・古舘佑太郎がカトマンズで自己嫌悪のループから抜け出せたワケ

2025.04.04(金)
取材・文=井口啓子
写真=深野未季