
エッセイ集『老い方がわからない』(双葉社)が共感を呼んでいる。老害にならず、若さにしがみつかず、「年齢以上の価値を持つ老人」になるにはどうしたらいいのか? 著者の門賀美央子さんは現在50代、執筆への思いとこれまでのことを聞いた。
私たちはもう誰からもケアしてもらえない

――タイトルを目にして、思わず書店で立ち止まりました。「うん、まさに!」と。私はもうじき50歳、老後はまだ先だけれど、「老い」は毎日のように感じます。正直、先行きは不安だらけ。本書を読み入りました。
門賀 ありがとうございます。まえがきにも書きましたが、私は「一人っ子、配偶者なし、子なし」でフリーライター。いまポックリ逝ったら後始末が大変だろうという思いがありました。日本という国は「会社員、既婚、子どもあり」がスタンダード。つまり、私はどれひとつとしてかすっていない(笑)。世の中の制度が基本的に「ケアしてくれる誰か」がいることを前提に設計されているから、私には「世間の常識」が当てはまりにくい。
――なので、どう老いていくべきかご自身で考えた、と。
門賀 本書を書くにあたって国や各省庁のホームページをいろいろと読んだのですが、いつまでも「元気で働ける人」しか要らないんだろう、という思いになったんです。そうでない人は、早く死んでほしいというのが本音ではないかと。もちろん露骨にそう書いてあるわけじゃないけど、議論の方向性を見れば明らか。
ただ、露骨にしてくるのは団塊ジュニア世代が定年退職する頃と思っていたので、高額療養費制度の上限額の引き上げを言い出してきたのには驚きました。
――政府はいったん見送って、秋までに再検討するとしています。
門賀 経団連の次の会長、日本生命保険の会長なんですよ(※2025年5月に就任予定)。これまでも議論はあったとはいえ、このタイミングで高額療養費の見直しを言い出すというのは、政府は医療保険に関してアメリカ的な社会にしたいんだろう、と。どんどん頼れない国になっていく。
――私も団塊ジュニアなのですが、「私たちはもう誰からもケアしてもらえない」という一文には、やはり恐怖を感じました。
介護保険サービスがジリ貧一方の環境下、長期間にわたる親の介護を覚悟しなければならない。けれども少子化により自分たちを介護してくれる層はほとんどいない。(中略)人口ピラミッドを見れば日本社会が“二十一世紀老人”を支えられなくなるのは一目瞭然である。(『老い方がわからない』まえがきより)
門賀 みんなが「薄目で見てきた現実」ですよね。日本ってまだ幻想を持っているように思うんです。20代から40代ぐらいが社会のボリュームゾーンであるといったような気分で社会がいる。実際はそんなことないのに。一方で「老人は優遇されている」という話がよく出ます。老人世代を叩いて、福祉をどんどん削っていったら、私たちの未来はどうなるのかと。団塊ジュニア世代は老人になればなるほど必ず貧困になっていくと思っています。
――そんな社会の中、なるたけ老害にならず、「年相応の分別と年齢以上の価値を持つ老人」にどうやったらなれるだろうか……と自問自答していくのが本書です。暗い状況をはっきり描きながら、暗い気持ちにならずに読める筆致が素敵でした。
門賀 話が沈鬱な方向に行くと、自分の中でツッコミが入るんです(笑)。
――そんな暗い話ばかりしてどないすんねん、的な?(笑)
門賀 そう(笑)。暗く、重くならないように書こうと気をつけているわけではなく、私が書くとどうやってもあまり暗くならないんですよ。根っこがやっぱりボケとツッコミというか、大阪育ちですから。
年をとればとるほど住宅が借りづらくなる、とは仄聞していた。(中略)「あら、あなた賃貸なの? 賃貸は年をとると大変みたいねえ、おーほっほっほ」とマウントを取られたこともある。だが、今度会ったら取り返してやりたい。「あら、あなた持ち家なの? 持ち家は持ち家で年をとると大変みたいねえ、おーほっほっほ」と。(『老い方がわからない』133ページ)
2025.04.03(木)
文=白央篤司
撮影=平松市聖