現代社会を生きづらくしているのは自己責任論

――老いていく上で「迷惑をかけない」を重視し過ぎないように、的なことを語られているのも印象的です。

門賀 もちろん迷惑をかけないよう心がけるのはいいことだし、重要なこと。だけど老いてくれば何かしらで必ず誰かに世話になり、迷惑もかけるようになる。まずは迷惑をかけないで生きるのは無理と自覚しようよ、と。「人に迷惑をかけてはならない」に固執し過ぎて、ひとりで頑張って頑張った結果、最終的に大迷惑につながるケースもあります。また、「迷惑をかけない」という規範は自己責任論にもつながっていく。

――デジタルデバイド(ITを利用できる環境やスキルの違いによって生じる格差のこと)の話も本書に出てきますが、世の進歩についていけないと迷惑をかける、情報弱者は努力が足りない、自己責任だ……といった風潮もあります。

門賀 分からなければ調べて覚えてついてくればいい、みたいな考え方をする人が多いですよね。私は現代社会を生きづらくしているのはこうした自己責任論だとも思うんですよ。努力を超えたところでどうしようもないことが、老いれば必ず出てくる。

 たとえば指の静脈認証なんて、年をとると血流が悪くなって反応しにくくもなるし、加齢によって手が震えてしまう人にフリック入力はむずかしい。世の中って、フィジカルな問題の無い人を中心に置いた設計がされているけれど、これからは圧倒的に老人が増えていくっていうのに、本当にそれで大丈夫なのか。何も考えられていないですよね。

――結局、老年をサバイバルするには「コミュニケーション強者」であれ、つながりを大事に、と結ばれますね。

門賀 そう書きつつも私、なんでもひとりで行動するのが好きだから困ってしまう(笑)。この場合の「つながり」というのは心のつながりじゃなく、住んでいる地域社会とのつながりのこと。近くの交番に自分の今の状況を伝えておく、なんて大事ですよ。地域のボランティア活動に参加する方もいる。その中で最終的に残るのは、自然にできたつながりでしょうね。老いるほどそういうつながりが、自分を支える地盤にもなっていく。

――現在は「繋がり方がわからない」と題して、出版社のサイトで連載をされていますね。リード文にある「孤独は不幸じゃないけれど、孤立は不幸の呼び水となる。いかに孤立を回避して、孤独でも幸せな老後を送るためにはどうしたら良いのか」という言葉も心に残りました。

門賀 何に幸せを感じるかは人それぞれです。集団生活がどうしても苦痛な人間だっている。だからこそ、人生の一オプションに過ぎない「孤独」を誰憚ることなく、気兼ねなく選べる社会であってほしいと思いますし、そうなるよう微力ながら当事者目線で発信していきたいと思っています。

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年大阪府生まれ。文筆家。主な著書に『ときめく妖怪図鑑』(山と溪谷社)、『文豪の死に様』(誠文堂新光社)、『死に方がわからない』(双葉文庫)など。座右の銘は「人間万事塞翁が馬」、好きな言葉は「果報は寝て待て」。

●聞き手

白央篤司(はくおう・あつし)

1975年東京都生まれ。フードライター、コラムニスト。主な著書に『自炊力』(光文社新書)、『台所をひらく』(大和書房)、『はじめての胃もたれ』(太田出版)など。座右の銘は「自給自養」、好きな言葉は「縁は異なもの」。

『老い方がわからない』

著者:門賀 美央子(著)
発行日:2024/11/20
定価:1,870円(税込)
双葉社
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2025.04.03(木)
文=白央篤司
撮影=平松市聖