
二宮和也が、主演としてだけでなく、脚本協力としても参加した映画『8番出口』。カンヌをはじめ世界各国の映画祭への招待が決まるなど、大きな手応えを感じている二宮に、創作についての想いを聞いた。
》【前篇】「途中からみんな台本を読まなくなって…」キャリア初の脚本協力、二宮和也が『8番出口』で辿り着いた〈ものづくり〉
台本は1回くらいしか読まなかった

――二宮さんはテレビなどで、台本をあまり覚えないというか、ざっとしか読まない、というようなお話をされていますが、作る側になってみていかがでしたか?
難しかったですよ。こうやって台本って作るんだ、って思いました。台本から関わったのは初めてですね。でも、今回も別に台本の全部を覚えてはいなくて、多分通しでは1回くらいしか読んでないんじゃないかな。
実は僕が演じる“迷う男”は、ずっと「歯医者、エッシャー、司法書士」とか言ってるだけなので、セリフを覚えなくていいかな、って(笑)。同じ場所を何十周もするけど、それしか言ってないんだって気づいてしまった。迷う男は異変を探しているだけなので、セリフというよりは記号というか、自分に見えてるものを言っていく。
後半の“ある展開”も、現場で色々と模索していたんですが、人と芝居をするのはこんなにも難しいことだったのか、ということに気づきました。1人の方が楽でした(笑)。
この映画は最初からずっと僕1人だけで芝居をしているんですが、1人だと間や展開とかを自分のタイミングで仕掛けていける。だから、後半でほかの人と芝居をすることになって、こんなに難しいんだ、今までどうやっていたんだっけ? みたいになりましたね。スタッフの人が優秀な人ばっかりだったから、自分のタイミングでやらせてもらえたってのはあるけども、それが一番大きな気づきでした。

――『8番出口』で二宮さんが演じた“迷う男”は、名前も明かされないし、背景もなかなかわかりません。どんなふうにこの人物にアプローチをしていったのでしょうか?
もちろんこの男が主軸ではあるけれど、“迷う男”だけでなく、何度もすれ違う“歩く男”(河内大和)や、少年(浅沼成)など、他の登場人物もみんな名前がないので、主役がいない作品だと僕は思っていて。
主役がいない作品でどんなことが出来るんだろうってことを常に考えていたので、僕が演じる人物を深掘りするよりも、出てくるキャラクターを並べて、どう動かしたら面白いかということを重視していきました。誰かがピラミッドの頂点にいるんじゃなく、横並びの方がいいんじゃないかな、というような考えが頭に浮かんでたので。迷う男と歩く男、歩く男と少年、というように。
監督から「ここではもっとこうして」とか言われた時は、素直に「ハイ」という時と、「3周目でそれをやろうと思っています」という感じで進めていました。あまりキャラクターを深掘りしなくても、台本通りに行けば、どこかの周回でこの男がどう思っていたのかが回収できるだろう、と。そのポイントを常に探してたっていう感じでした。
2025.08.27(水)
文=石津文子
写真=太田好治