「落ち込む自分を否定しないことも大切な気がします」

――今では「元気玉」の写真を撮って、現状を楽しむまでに。

古村 脱毛2度目ともなると心得たもので、「これは記録を取っておこう」と、毎日写真を撮り溜めていたんです。私のなかでは清志郎さんの「完全復活祭」(※がん治療を経て復帰した忌野清志郎が2008年、日本武道館にて行なったコンサート。冒頭で清志郎の脱毛と発毛の記録を映したスライドショーが流れた)のイメージだったんですよ。でも動画の編集をやってくれている次男はそれを知らないのでちょっとイメージが違っちゃったんですけど(笑)。

――気持ちが落ち込んだとき、どうやってリカバリーされていますか?

古村 「開き直り」と言ったら語弊があるかもしれませんが、「無理なく受け入れる」ということがすごく大切なんだなと、この13年、家族や周りの人たちに支えてもらいながら学びました。がんを知る、自分が今置かれている状況を知る。知らないと向き合い方もわからないし、どうしたらいいのかもわからない。

――人生における苦難の、どんなケースにも当てはまりそうです。

古村 「事実と感情を分ける」という考え方は意識していますね。現実に起こっていることだけを見て、がんになっている、だから治療をするということだけを考えるんです。「不安」という感情は自分の想像のなかのものですからね。

 それから、落ち込む自分を否定しないことも大切な気がします。私の場合は、一度とことん落ち込んでみると意外と「底」が見えるんです。深く落ち込んだとしても体がちゃんと昇ってきて、何も食べたくないと思っていたのにお腹が空いてきたり。「あ、私の底はここだな」とわかったら、底にタッチしてあとは浮上していくだけ、みたいな。

――胸に刻みます。

古村 最近のお気に入りは、お風呂に浸かりながら自分に拍手をすること。たとえばお芝居だと、演者も観客も拍手で浄化されますよね。私はあの瞬間がとても好きなんです。今日1日がんばった自分に拍手をしてあげると、心と身体が共鳴して、涙が流れてきます。お風呂の中なら涙が流れるままに、思いっきり泣いてもいいですし。

――今、幸せを感じるのはどんなときですか?

古村 生きている実感があるときかな。朝目覚めて、カーテンを開けて風を感じて、朝陽を浴びて呼吸をするだけで、嬉しくなったり、お腹が空いたり、美味しく食べられたり。髪が生えてきたり、痛みが消えたり、笑えたり。日々のなかの、本当になんてことない一瞬にハッピーを感じます。

――これからやってみたいことはありますか?

古村 はい、あります。「シアワセの予感」という朗読劇を10月に行ないます。俳優さん、がんを経験した仲間と「人生のシアワセとは?」を紡いでいきます。家族や周りの人との関係性、そして自分を見つめるきっかけになるような作品になればいいなと思っています。

――「日々のなかの、なんてことない一瞬にハッピーを感じる」とおっしゃっていましたが、そのひとつに「毎朝『チョッちゃん』を観る」も含まれていますか?

古村 もちろんです!(笑)

2025.08.14(木)
文=佐野華英