――3人の息子さんたちとの関係がチャーミングですが、どうやったらそんなふうに育つんですか?

古村 なんでしょう……あんまり意識してこなかったのですが、「親だから」「子どもだから」という境目をなくして、ひとりの人間どうしとして過ごしてきたのは大きいかもしれないですね。「親子」というよりは「同居人」。それと、ひとりずつと話をする時間を大切にしました。

――その関係はいつ頃からできてきたのですか?

古村 もちろん最初からそうだったわけではなくて、きっかけがあったんです。長男が小学校5年生のとき、友達どうしで幕張まで遊びにいきたいと言い出しました。やっぱり母親としては心配で、「途中で迷子にならない?」「子どもたちだけで行って、何かあったらどうする?」みたいなことをチクチク言ってしまって。

 すると長男に「そんなに俺のこと信用できないの?」と言われました。その言葉に胸を突かれちゃったんです。「時は来た」というか、「今が子離れの時だよ」と言われたような。相手を信じるには、こちらも腹を括る必要がありましたけど、それが大きなきっかけでしたね。

血を流して殴り合いをしている長男と次男を静観した理由

――子離れと親離れが早かったんですね。

古村 あともうひとつ。長男が小6で次男が小5の頃に、しょっちゅう取っ組み合いの喧嘩をしていた時期がありました。ある日、当時小1の三男が心配になって私に知らせにくるぐらい、激しい喧嘩をしていたんです。

  見にいったらお互い血を流していたんですが、私は手を出さないほうがいい気がしていったん静観することにしたんですよ。するとしばらくして、ピタッと喧嘩が止まった。たぶん次男のほうが身体が大きかったので、「これ以上続けたらお兄ちゃんのプライドがズタズタになる」と判断したんでしょうね。

――そこで割って入らない判断は信頼関係がないとできませんよね。

古村 落ち着いたところで、私は「2人でお風呂入ってきな」とだけ言いました。それで一緒にお風呂へ行って、上がった2人が「あ~スッキリした!」と言ったのには驚きました。それ以来、殴り合いの喧嘩をしなくなったんです。三男はのちに、そのときの様子を漫画に描き起こしていました。血まで描き入れて、すごく詳細に描写していて(笑)。

――それが古村さんの家族の信頼関係なのですね。だから息子さんたちも「母さんは絶対にがんからサバイブする」と信じているのでは。

古村 ただお互い重くならないように「もしものこと」も話しますよ。最近、三男から明るく「母さん案外図太いね」と言われたことはありますね。「しぶといね」だったかな。言われたときは、それなりに傷つきましたけど(笑)。

――公式YouTubeチャンネル「がんサバイバー 古村比呂」でも、息子さんたちが協力してくれているんですよね。抗がん剤治療の副作用による脱毛と発毛の記録を、ユーモアを交えながら紹介されているのも印象的でした。

古村 「ツルリ」ですね(笑)。副作用で脱毛すると所々毛が残って落武者みたいになってしまうので、三男がバリカンで刈ってくれてスキンヘッドにしたんです。ブログに載せた、日の出とスキンヘッドをコラボした「元気玉」の写真は大のお気に入りなので、動画の中にも入れています。私は抗がん剤治療を3度、脱毛の副作用を2度経験しましたが、やっぱり初めての脱毛のときは不安だったしショックでした。動画を見て少しでも軽い気持ちになってくれる人がいたらいいなと思っています。

2025.08.14(木)
文=佐野華英