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タブーとなったKくんの話題

振り向くと台所の入り口に手をついて、女が中に入ろうとするところでした。
これは夢だ、こんなこと現実にあるはずがない……――そう思ってお母さんの足に掴まって震えていると、赤い帽子の女の後ろから、Kくんのおじいさんのつぶやくような声が聞こえたというのです。
「……そ、そっちが決めた約束事なのに、そっちが守らなくてどうするんだ」
『あははははははは!!!!』
台所にこだまする女の高笑い。そこでNさんの首筋はフッと冷たくなり、意識が途切れました。
気がつくと、Nさんは猛スピードで走る車の中にいました。起き上がり両親に声をかけようとしましたが、その表情は顔面蒼白でブルブルと震えており、とても声をかけていい雰囲気ではなかったそうです。
Nさんはそのまま体を戻し、家に着いて父親にベッドに寝かしつけられるまで眠ったふりをしました。
寝室の扉が閉まり、居間から父親の「あんな親戚とは二度と関わらないぞ!」という怒鳴り声と、母親のすすり泣く声が聞こえたそうです。
それ以来、Nさん一家の中でKくん一家の話題はタブーとなり、大人になってからこのことを両親に話しても「夢でも見たんだろう」と煙に巻かれるだけで、次第に自分でもそう感じるようになったそうですが、両親は高齢で亡くなるまで一度も親戚の家には足を運ばなかったそうです。
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禍話
2025.08.10(日)
文=むくろ幽介