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蘇る1年前の記憶

 遺影の置かれた仏壇の前でお坊さんがお経を読んだ後、すぐに宴会が始まりました。

 お酒が入ると訪れていた親族たちの表情にもすぐに笑顔が浮かび始め、誰々が受験をしただの、誰々はいつ結婚するのか? だのといった話題で盛り上がっていたそうです。

 涙する大人が多かった去年は感じませんでしたが、Nさんはこの一周忌の方が悲しみを感じていました。なぜなら、こういう大人たちが盛り上がっていたときに一緒になって時間を潰していたKくんの不在を、今になって強く感じていたから。

「お母さん、ちょっとお便所行ってくる」

 ギシッ、ギシッ、ギシッと板張りの廊下を歩いていると、居心地の悪い喧騒が収まる代わりに1年前のあの夜の記憶が蘇ってきました。

 気がつくと、Kくんの部屋の襖に手をかけていました。

 去年と同じように散らばったメンコや昆虫標本を模写した画用紙たち。

 1年も経っているのに部屋の中を片付けないことなんてあるのだろうか……と不思議に思ううちに、脳裏にあの鉛筆でグチャグチャに描き殴った画用紙のことが浮かびました。

2025.08.10(日)
文=むくろ幽介