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門の向こうに立っていたのは……

ポチャン。
下駄箱の上の鉢の中で金魚が跳ね、パッとそちらに目線を切った瞬間、Nさんは玄関扉の向こうから視線を感じました。引っ張られるように視線を玄関に向けると、あることに気がついたそうです。
庭が広くなっているのです。明らかに砂利道が数十メートルは広くなっていました。
ジリジリと揺らめく夕陽越しで異様に伸びた砂利道の先、屋敷の門の向こうに女の人が立っていました。
夕焼けの蜃気楼で歪んでいるのになぜかはっきりとわかる真っ赤なクローシェ帽。その帽子の下の顔が、ふっとこちらを向いてニッコリと笑ったのだそうです。
『そんなところにいたんだぁ』
知り合いでも見つけたかのように、門の向こうから女が声をかけてきました。
2025.08.10(日)
文=むくろ幽介