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封じられたKくんの部屋

 目線を勉強机のあの大きな引き出しに向けたとき、なぜそれまで気がつかなかったのか不思議に思ったそうです。

 引き出しには五寸釘のようなものが何本も打ち付けられ、絶対に開かないように“封”がしてありました。
 

「ワハハハ!」

 廊下の向こうから聞こえてきた親戚の笑い声にハッと我に返ったNさんは、逃げ出すように部屋を後にしました。

◆◆◆

 その日の夕方、Kくんのお母さんとNさんの両親は玄関の戸を開けたまま延々と話し込んでいました。そして「あ、そうだ! 渡したいと思っていたお土産たくさんあるのよ!」というKくんのお母さんの一言を受け、お母さんとお父さんは台所に姿を消したのです。

 1人玄関先に残されたNさん。

 開け放たれた扉の向こうでは、門へと続く砂利道がキラキラと輝くオレンジ色の夕陽に照らされていました。

 不意にあのKくんの絵の中に入り込んでしまったかのような気持ちに襲われたそうです。

2025.08.10(日)
文=むくろ幽介