工程は関東風だが、焼きが強めで酒に合う!

 ウナギの焼き方は、四国ではわりと珍しい関東風。背開きにして串打ち、素焼きの後に蒸して本焼きという流れは、独立前に腕をふるっていた「うなぎ小椋」と同じだが、うな辰の焼きはさらにちょっと強め。

「身はさっと炙って、皮をしっかり焼く。中途半端に焼くと皮がどぅるっとしてしまい、それがくさみに繋がるんです。焦げるか焦げないかの瀬戸際まで焼くのが肝心」(店主・村上さん)。

 香りだけで酒が飲めそうな「白焼」は、パリふわな身が香ばしく、少しほろ苦く、強めの焼きによって生まれた風味がさらに酒を呼びます。すりおろした生本わさびと高知「塩丸の塩」で、贅沢に味わって。

 「こんな白焼、食べたことない!と喜んでくださる方が多く、おかわりする人も」と村上さん。「白焼」はかなり好評で、これを目当てに全国から人が訪れるという逸品です。また、「白焼重」の場合、途中でタレをかけて味変できるので二度美味しいと評判だそう。

 四国でウナギというと四万十川のウナギが有名ですが、「安定しておいしい宮崎産か鹿児島産のウナギを仕入れています」と店主。今日、店で焼かれていたのは宮崎の中村養鰻場による「味鰻」で、豊富な地下水で育ったピュアで生命力あふれるオリジナルブランドのウナギでした。山椒は高知県仁淀産の鮮度の高いものを使っていて、少しふるだけでウナギの格がひとつ上がるような気がしました。

 おなかはいっぱいだが、もうちょっと飲みたいときに嬉しいのが「骨せんべい」。きれいに身から離れた骨姿も美しく、油っこくもない。ポリポリおいしい最強のおつまみで、私はテイクアウトして東京へ帰る飛行機のビールのお供に味わいました。

 残念ながらおなかの容量が足りず、スタンダードな「うな重」まで到達できませんでした。いつもウ帰りは腹パンで食べ過ぎのおなかをさすりつつ帰宅の途に就くのですが、「うな辰」アフターは体も軽やか。ほろ酔い&ご機嫌で、こんな日があってもいいなぁとウ呑みにはまりそうな予感。

 ちなみに「うな重」に使っているお米は産地の異なるコシヒカリをブレンド。店主が全国各地のお米を食べ比べ、たどり着いた組み合わせだそう。ウナギだけではなく、お米にも手を抜いていないので、必ずうな重を食べたい派はぜひ味わってみてください。

 そして土用の丑の日は、お持ち帰りが中心で予約もOK。2025年は7月19日(土)は持ち帰り営業のみ、7月31日(木)昼は店内営業・夜は持ち帰りのみの営業です。「うな重 上(半匹)」2,100円、「うな重 特上(一匹)」3,900円、「白焼き重 特上(一匹)」3,900円、「うな重 極上(一匹半)」5,000円が注文できます。

【うなぎ小話】

松山・旅ウナギの前後に立ち寄りたいスポットは数多くありますが、個人的におすすめしたいのが「伊丹十三記念館」です。愛用のキッチン道具や食器などが飾られた食のコーナーや、伊丹さんの正調「松山弁」が聞けるめちゃ面白いCM映像など楽しい展示が満載。ショップで「映画『お葬式』シナリオつき絵コンテノート」という書籍を購入しましたが、表紙にはウナギの絵コンテが。監督1作目である映画『お葬式』の冒頭シーンは、ロースハム、アボカド、そしてウナギという食卓。これは日頃極端に倹約家だった真吉(主人公の父)の珍しくも贅沢をした最後の晩餐で、ウナギで焼酎を呑み、「ああ、ええ気分だ」とつぶやきます。夕食後に異変が起こり、『お葬式』の本編へと物語は進むのですが、散り際を豊かに彩るウナギの使い方が絶妙です。

鰻と酒 うな辰

所在地 愛媛県松山市二番町3-8-3 第2森田ビル1F
電話番号 080-7885-7844
営業時間 11:00~14:30(14:00 L.O.)、18:00~22:00(21:30 L.O.)
定休日 木曜
交通 伊予鉄道・大街道駅より徒歩4分
https://unagitosake-unatatsu.com/
https://www.instagram.com/unatatsu.matsuyama/

嶺月香里(みねつき・かおり)

天然ウナギも泳いでいる東京の江戸川のほとりに生まれ、ウナギをこよなく愛するフードライター。レストランやレシピ取材のほか、漁港や食の生まれる工場まで、幅広く取材。ウナギ店めぐりは仕事を離れた趣味でもある。小学生の時に参加した地元のどじょうつかみ大会で、余興ではなたれていたウナギを執念で捕まえたことがあるのが静かな自慢。

Column

教えて! ウナギ大好き、ウ大臣

ウナギは好きですか? 白いごはんにこってり蒲焼。「今日はウナギ!」という日は無性にテンションが上がります。食や旅の取材で日本中を飛び回るウナギ大好きライター・嶺月香里さんが「ウ」の話を聞かせてくれます。

2025.07.19(土)
文・撮影=嶺月香里