CREAスタッフの中でも指折りのウナギ愛好家、ライターの嶺月香里さん。取材で全国各地を飛び回り、行く先々でウナギ情報を仕入れてくる嶺月さんは、編集部でウ大臣と呼ばれています。そんな嶺月さんのおすすめウナギ情報を書き綴ってもらう連載は本日も絶好調です。

 第4回は島根県・松江の老舗「うなぎ処 山美世(やまみせ)」へ、火山の島“大根島”の井戸水に泳がせたウナギを堪能します。


大正時代から続く松江の老舗でいただく、ミネラルウナギ

 水の都・松江には「宍道湖七珍(しんじこしっちん)」という郷土料理があります。これは宍道湖に生息する代表7種の魚介を宍道湖の珍味としたもので、その七珍のひとつがウナギ。

 海水と淡水の混じる汽水湖なので、シジミやスズキ、コイなどいろいろなお魚が獲れるんです。宍道湖の天然ウナギも非常に味の評価が高いのですが、漁期が4~10月と限られています。

 漁期じゃなくても、松江らしいウナギが食べたい! となったら「うなぎ処 山美世」へ。ここでは生きたウナギを大根島の井戸水に数日泳がせてからさばきます。宍道湖と繋がる汽水湖「中海(なかうみ)」に浮かぶ大根島は、約20万年前の噴火活動によって誕生した火山の島。溶岩の中を流れる地下水(熔岩水)はビタミンやミネラルをたっぷり含んでいて、そこに放たれた養殖ウナギはミネラルを身に湛えてぐんと風味を増し、松江っ子のウナギに生まれ変わるのです。

 「鰻特重」のふたをあけると肉厚なウナギがみっちり詰まっていて、照りのいいタレが色よく絡まり、食欲を刺激する香りが立ち上ります。

 「山美世」の創業は大正3年、それ以来、100年かけて改良に改良を重ねた秘伝のタレが、この店だけの味わいを生み出しています。とろみのあるタレはちょっと甘めで、ウナギの焼きは蒸さない関西風。このうな重、食べ進めるとごはんの中からもう一切れ蒲焼が出てくるので、ちょい蒸しウナギも食べられるお楽しみが。くにゅっと確かな弾力を感じる皮の旨みに思わず笑顔がこぼれます。

 添えられた肝入りのシジミ汁は、貝と肝のダブルのほろ苦さが楽しめて、甘辛い濃いめの蒲焼にぴったり。ウナギの箸休めにぴったりな大根の酢の物は、牡丹の花の時期だけ「牡丹の花びらの酢の物」になるそうです。大根島には日本有数の牡丹園があるので、時期があえばぜひ訪れてみたいですね。

 鰻重のおともの山椒は島根県雲南市産の「奥出雲はじかみ」。6月の早い時期に収穫した実山椒は爽やかな香りと余韻が心地よく、ミル挽きタイプなので香りのよさはひとしおです。

2023.03.29(水)
文・撮影=嶺月香里