ウナギ好きなら外せない1本丸焼きの「素焼き」

 名物は秘伝のタレで焼いた「特重」なのですが、ウナギの素材のよさを知るならばやっぱり白焼きは外せません。1尾丸ごと焼き上げる「素焼」は、美しい焼き色を裏切らないパリッと感。

 かみしめれば、ねちっとしたゼラチン質を感じる身と皮の旨みが広がります。ウナギが肉厚ゆえの歯ごたえなのでしょうか。フワフワやトロトロとは一線を画す焼き加減に頬がゆるみます。藻塩に山葵醬油、いろいろな味で食べられるのも楽しく、個人的にはレモン×藻塩がヒットでした。山椒×藻塩も捨てがたいかな。

 メニューを開いてびっくりしたのが「海の幸縁結び鰻丼」。うな丼に緑色のとろっとしたものがのっかっています。

 この正体は隠岐の島特産のめかぶで、海の幸同士が“縁結び”したオリジナル丼なんです。どんな味なんだろうという好奇心に駆られますよね。最初は不思議な感じもしましたが、食べ進めるとねばっとろっとしためかぶとウナギは意外なほど相性がよく、タレを追いがけして混ぜれば、するするっとごはんがなくなります。山芋で食べる「うなとろ丼」の海バージョンといった感じでしょうか。

 個人的にぐっときたのが、丼にのったウナギの内臓の煮つけ。むちっとしていたり、プニュッとしていたり、別の生きものなんじゃないかというほど食感の違う内臓たちに出合えます。

 お店でも単品でオリジナルのウナギ料理がたくさん選べますが、お土産やお取り寄せに便利な瓶詰・缶詰などが揃っているのも特筆もの。珍味!と思ったのは「鰻内蔵の白みそ漬け」。白みそなので塩気は強くないのですが「日本酒、持ってきて!」と声をあげたくなる旨さ。みそ漬けしてオイルにひたしているので、バゲットにのせて食べてもよさそうです。じわじわウナ味が押し寄せてくる「鰻の佃煮」もよきお味でした。

 もともとこのお店は大根島に店を構えていましたが、2018年に移転リニューアルしてモダンな店に生まれ変わりました。私は大根島時代にも訪れていましたが、席数がぐっと増えて入店しやすくなった印象です。

 お店のすぐ近くに「ベタ踏み坂」という異名を持つ江島大橋があるのですが、米子空港(境港)方面からこの急勾配の坂をのぼって店に向かうと、頂き(最上部は高さ約45メートル!)から中海や大根島の眺望がぱあっと広がり、なかなか感動的な景色を見つつ坂を下れます。訪れた日は雨上がりだったせいか、湖から水蒸気がむらむらと立ち上り「八雲立つ」といった神秘的な景色になっていました。眼福。

 「山美世」を訪れたら必ず詣でたいのが「うなぎ神社」。店の敷地内に鳥居と祠が祀られています。ウナ食アフターにお参りするとご利益があるそうです。

 「これからも、いいウナギに出合えますように!」と願掛けし、神々の国・島根を満喫しましょう!

【今月のウ話】

島根から鳥取、岡山を経て兵庫県まで横断する出雲街道は「うなぎ道」「うなぎ街道」という異名を持っています。江戸時代の中頃、中海で突如ウナギが大豊漁に。松江の商人がそれに目をつけ、大阪での販売をもくろみます。生きたまま籠に入れて天秤棒で担ぎ、途中途中の清流に放してウナギに元気を与えつつ、ピチピチの状態で大阪まで運んだとのこと。島根産のウナギは大阪の食文化に大きな影響をもたらし、「いづも屋(出雲屋)」という屋号のうなぎ屋が200軒あまりもあったそう。島根の中海から険しい中国山地を越えて岡山までは徒歩、岡山から舟で大阪まで運んでいたというから、江戸時代の人々のウナギ愛の深さに畏敬の念を抱かずにはいられません。

うなぎ処 山美世(やまみせ)

所在地 島根県松江市八束町江島1128-10
電話番号 0852-76-3198
営業時間 11:00~15:00(L.O. 14:30)
定休日 なし(1/1~7、11/16休)
https://yamamise.com/

嶺月香里(みねつき・かおり)

天然ウナギも泳いでいる東京の江戸川のほとりに生まれ、ウナギをこよなく愛するフードライター。レストランやレシピ取材のほか、漁港や食の生まれる工場まで、幅広く取材。ウナギ店めぐりは仕事を離れた趣味でもある。小学生の時に参加した地元のどじょうつかみ大会で、余興ではなたれていたウナギを執念で捕まえたことがあるのが静かな自慢。

Column

教えて! ウナギ大好き、ウ大臣

ウナギは好きですか? 白いごはんにこってり蒲焼。「今日はウナギ!」という日は無性にテンションが上がります。食や旅の取材で日本中を飛び回るウナギ大好きライター・嶺月香里さんが「ウ」の話を聞かせてくれます。

2023.03.29(水)
文・撮影=嶺月香里