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採れたての山菜は、瑞々しくシャキシャキとした食感が美味

 土鍋で炊き上げるご飯の「煮えばな」を挟んで、5品目には「うど」が登場。もちろん採れたてなので、生でいただきます。

「うどの春巻きにしようと思っていたのですが、今日は佐渡から毛ガニが届き、収穫したうどもベストな状態だったのでメニューを変えました。次の魚料理に合わせて、少しクールダウンできるようサラダ仕立てにしています」

 ひらひらと薄くスライスされたうどは、生でもえぐみがまったくなく、瑞々しくてさっぱりとした味わい。ほのかな苦味がひそんでいますが、それが絶妙においしいのです。その下に、さまざまな山野草と自家製のベーコン、そして毛ガニのほぐし身がたっぷりという贅沢な逸品。

 春先になると、どこからかふわりと甘く華やかな香りがして足をとめることもあるでしょう。見上げると大ぶりな花を咲かせるマグノリアだったりします。

 「里山十帖」の周辺にもマグノリアを見つけました。その花びらを集めて白ワインに漬けた果実酒から生まれたのが「マグノリアのカクテル」です。花咲く春にふさわしい冷たいカクテルと「うど」とのマリアージュでリフレッシュ。

 口の中もさっぱりしたところで、魚料理の出番です。「鯛」は、肉厚の鯛を炭火で焼き上げ、蕗の煮物を添えたもの。

「フキノトウは、天ぷらや蕗味噌にするのが代表的ですが、刻めば薬味として料理のアクセントにもなります。花が咲く前の萌黄色の蕾がおいしいのですが、花が終わって伸びてくる蕗の葉柄もキャラブキや煮物、炒め物にして使います」

 魚料理は、青木酒造の「雪男」シリーズから、新潟県内限定酒「雪男 純米酒 愛山」を燗酒にしていただきます。この雪男は、江戸時代の文人であり、蔵人の先祖にあたる鈴木牧之(ぼくし)の『北越雪譜』に登場する毛むくじゃらの獣がモデルになっているそう。

 希少な酒米「愛山」を70%精米で醸した純米酒は、温めることで麹のふくよかな香りが。鯛の甘みを補完するような旨みがあり、いっそう味わいを深めます。

 続いての肉料理は、わらびの信田巻き、雪室のごぼう、葉山葵を豚のローストとともに盛り付けた「黄金豚」です。どれも絶妙な味わいに調理されており、極細に千切りしたごぼうは、ちょっぴり酸味をプラス。そこに、熟してからとったという赤い山椒の実と十日町産のエゴマも和えています。

「葉山葵は、茹でてさっと塩を合わせると辛みが出ますが、今回は少し発酵させて薬味代わりに添えています」

 「黄金豚」には、新潟ワインコーストに属する、ドメーヌ ショオの「Please don't be sad/悲しまないで」を組み合わせ。“出汁感”や“土瓶蒸し感”を大切にしている旨みのある赤ワインです。エチケットの裏面に記されている言葉もユニークで見逃せません。

 魚沼の米仙人・清さんのコシヒカリ「ごちそうごはん」を堪能したら、デザート「里山・さっぱり甘味」でコースを締めくくります。自家製の甘酒を使ったアイスクリームと季節のフルーツとクッキー。

 なかでも春らしさを盛り立てるのが、新潟県が開発したブランドいちご「越後姫」。芳醇な香りとジューシーな食感が人気で、糖度が高く、やさしい酸味が特徴です。ほどよい甘さのひんやりスイーツで後味もさっぱり。「ごちそうさまでした」と感謝の気持ちが溢れてきます。

 春の「里山十帖」の献立は山菜づくし。素材の持ち味を活かしながら多種多様な山菜を、さまざまな調理法でいただきました。

 また、今回は山に入って食材を調達するところから同行し、そこでご紹介していただいたのが桑木野さんの山の師匠である村山達三さん。郷土料理をはじめ、山菜の芽吹きから、花が咲き実になり土へ朽ちていく里山の循環を教わったといいます。

「愛がある人で尊敬しています。本当にかっこいいんですよね」

 収穫した山菜は丁寧に汚れを取り、アクを抜いたり、天日に干したり、何度も茹でこぼしたり、塩に漬けたりと、下処理だけでも手間がかかるもの。山菜も春だけでなく、夏、秋、冬と姿を変えてメニューに加わっていきます。

 「里山十帖」の食体験もひと巡り。風光明媚な里山で感動を伝える桑木野シェフの挑戦はまだまだ続きます。

里山十帖

所在地 新潟県南魚沼市大沢1209-6
電話番号 0570-001-810
部屋数 13室
料金 1室2名利用 1名2食付 32,395円~
https://www.satoyama-jujo.com

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2025.06.27(金)
文=大嶋律子
写真=鈴木七絵