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「早苗饗-SANABURI-」で里山のエネルギーをたっぷりと味わう

 「里山十帖」のレストラン「早苗饗-SANABURI-」では、二十四節気七十二候でメニューの名前を決めています。この日は立夏「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」。

 「ちょうど2日前から、かえるが鳴くようになったんですよ」と教えてくれた桑木野さん。昔と変わらない季節が巡る里山で、お待ちかねの山菜料理をいただきます。

 「蛙始鳴」コースのトップバッターは「よもぎ」。敷地内で採れたよもぎと大沢産の餅米をすり鉢ですり、煮干しの出汁と合わせた温かいスープです。

「昨日までお出ししていたのは、よもぎ餅。よもぎと餅米は相性がよくて、今日はスープにしました。よもぎは和え物や生のまま天ぷらにしてもおいしいですよ。決まったレシピはなくて、その日仕入れた食材を即興で仕上げていくのですが、特に山菜シーズンは種類や採れた量によって使い方も異なるので、毎日メニューが変わります」

 今回も桑木野シェフにペアリングをお願いしました。「よもぎ」には、八海山とは異なるアプローチで八海醸造が新しく設けた次世代の日本酒「唎酒(りしゅ) No.088 山桜(やまざくら)」がお目見え。春めくほのかな桜色は古代米によるもので、シュワシュワと軽快に躍る泡が可憐な花を咲かせるよう。乾杯酒にぴったりです。

 2品目の「春香る」は、採れたてのタケノコと鰤を三つ葉と合わせ、猪のジュレで旨みをプラス。タケノコの歯応えと甘み、鰤の皮目を炭火で焼いた香ばしさと身の食感、そこに爽やかなソースも加わり気持ちが華やぐひと皿です。

 ペアリングは今年リブランドした長岡市の日本酒の酒蔵、葵酒造の「Maison Aoi Untitled 04(メゾンアオイ アンタイトル)」をワイングラスで。エレガントな飲み口でやさしい甘みの余韻と凛としたキレが味わえる一杯です。

 ほどよい苦みと甘み、えぐみ、香り、シャキシャキとした食感…。

 「里山十帖」の春のスペシャリテといえば、地元の山菜を一度にいただける「山菜鍋」です。この日は、せり、クレソン、しゃく(やまにんじん)、のかんぞう、かたくり、あさつき、木の芽(あけびの新芽と山椒の新芽)、赤こごみ(いっぽんこごみ)などの多彩な山菜と、猪肉が用意されました。

「せりは山の奥に自生していて、先日少し採れたときは、さっと茹でて胡麻和えでアジと合わせたのですが、今日はたくさん採れたので鍋にしました。せりは根っこが一番おいしいですから、ぜひ丸ごと召し上がってください」

 食べ方は、猪ベースのスープに猪肉とせり、かたくり、ちょっと苦味のあるあけびの新芽を少し入れたらあとは自由。途中で山椒の新芽を入れると爽やかな味の変化が生まれ、アクセントに。これはもう箸がとまりません。

 食中酒は産地も合わせ、地元、南魚沼市の青木酒造の「鶴齢 純米酒 超辛口 生原酒」をセレクト。飲み飽きない辛口と食べ飽きない山菜鍋は無限地獄ならぬ、“無限天国”。

 次なる料理は「海と大地」。山菜と魚介を一緒に味わえる3種の盛り合わせです。たらの芽には、つぶしたイカを詰め、葛粉と小麦粉ベースでカリカリに揚げ、ピリリと辛いかぐら南蛮の塩漬けを添えています。

「タコは佐渡産のものをやわらか煮にして、そこにうるいとのかんぞう、山胡桃、松の実を和えました。あん肝には、みずという山菜の茎を合わせ、たま味噌をのせています」

 桑木野シェフが「海と大地」に合わせたのは、淡いサーモンピンクの辛口ロゼワイン。新潟ワインコーストに属する、フェルミエの「ロゼ ピノ・ノワール&ピノ・グリ」です。しっかりとした果実味とフレッシュな酸味は、魚介の旨みを引き立て、山菜の独特な風味とも調和します。

2025.06.27(金)
文=大嶋律子
写真=鈴木七絵