金銀山の町として知られ、最盛期には10万人が暮らしたと言われる佐渡・相川。今では人口は5000人を切る小さな港町に、静かに再生の灯がともりつつあります。その町に生まれた一軒のホテル「NIPPONIA 佐渡相川 金山町」は、ただ泊まるための場所ではありません。町全体を“ミュージアム”として再発見し、歩き、触れ、感じることを楽しむための拠点。その滞在は、きっと記憶に残る時間になります。


通過型の観光地から、“3日間の物語”が生まれる町へ

 かつて金銀の採掘で栄えたこの町には、江戸時代に全国から多くの人々が移り住み、にぎわいを見せていました。いま、相川地域での観光は主に「佐渡金山」を中心とした“3時間の通過型”が主流だと言われていますが、NIPPONIAを開発運営した相川車座ではそれを“3日間の滞在型”に変えていこうという構想があります。

 金銀山をひとつのきっかけに、町を歩き、路地を曲がり、人と出会いながら、旅人自身が物語の主人公になるような体験をつくっていきたい。その想いから生まれたのが、「町ごとミュージアム」という発想でした。

 町を歩いてみると、金の採掘で使われていた石臼が石垣に転用されていたり、全国から集まった人々が築いた坂道の町並みがそのまま残されていたり、佐渡の能文化の発祥とも言われる春日神社能舞台があったり。さらには、佐渡おけさの唄声が今もどこかから聞こえてくる。そうした日常はまるでミュージアムのよう。

 もちろん、相川の夜を彩る飲食店やスナックもまた、“町の展示物”のひとつです。地元の味を求めて、浴衣姿でそぞろ歩く。そんな旅の風景を取り戻したいという思いから、宿の浴衣も“昔ながら”の柄を採用しているのだそう。

2025.05.28(水)
文=齊藤美穂子
写真=佐藤 亘