
シンプルな組み合わせでありながら、材料や調理の妙で実に奥深い味わいを表現できるグルメバーガーは1990年代後半からブームとなり、全国に数多くの専門店を生み出し、今も根強い人気を誇っています。
レトロアメリカン風の凝った内装の店舗も多く、アメリカへトリップした感覚が味わえると、InstagramなどのSNSを中心に近年注目されている印象です。
特集「ダイナーでハンバーガー」の第3弾となる今回は、地元民に長らく愛されてきた東京都・駒沢の名店「AS CLASSICS DINER」を訪問しました。
IT業界からの転身で一から築き上げた地元密着型の“癒しのお店”

東急田園都市線、駒沢大学駅から徒歩約15分という、少々駅から離れた場所にひっそりと佇んでいるのが、今年で創業20周年を迎えたという「AS CLASSICS DINER」です。
アメリカの片田舎のロードサイドに佇み、老若男女がコーヒー1杯から食事まで気軽に利用出来るダイナーがコンセプトだという同店には、創業者であり店長の水上誠二さんが趣味で集めたランプやジュークボックスといったインテリアがずらりと並んでいます。
「数年前までは1950年代のポップなテイストだったのですが、自分の成長に合わせて40年代のシックなデザインに変更しました。マーベルドラマ『エージェント・カーター』に素敵なダイナーが出てくるのですが、カラーリングはこの作品から影響を受けています」(水上さん、以下同)

和やかに語る水上さんですが、意外にもこのお店を始めるまで飲食業界は未経験だったそうです。
「10年ほどIT系業界に身を置きましたが、仕事で渡米した際に現地のカルチャーに影響を受けて転身を決意しました。日本に戻ってから、友人が区画整理があり2年しか経営できないからバーを閉めるという話を耳にするタイミングがあり、この時間制限は初挑戦にはうってつけだと思い、お店を引き継ぐことにしたのです。その後、日本のイタリアンブームの火付け役だった今はなき名店のシェフがバーの常連だったことが縁で、幸運にも雑用をしながらそこで飲食業界の基礎を学べました」

バーを閉めた頃にご結婚されて三宿に引っ越した水上さん。しかしここでも予期せぬ出会いが運命を変えたのだとか。
「借りていた部屋の1階にサンドイッチの名店『FUNGO三宿本店』があり、アルバイト入店したのです。その後、正社員から店長へ昇格して約6年間働いたのですが、その間に一度、同店の関俊一郎社長に『ハンバーガーもやりませんか?』と提案したことがありました。当時はグルメバーガーの名店『ファイヤーハウス』が関社長のアメリカ時代の学友・吉田大門さんのお店だったこともあり、住み分けを意識されて一度は断られたのですが、熱意が届いたこともあり後に採用され、傾き気味だった経営も軌道に戻りました。このときの経験が自分の中で大きなものとなり、より自分がやりたいことを追求しようと決意した形ですね」

これを機に独立を決めた水上さんでしたが“自己研鑽の時間が必要&人通りの多い立地は気質に合わない”という理由から、駒沢のロードサイドを選びました。
「今もお客さんの9割以上は地元の方で、中には著名な芸能関係者もいらっしゃいます。こうした地元密着型店は高い売上げは見込めませんが激しく落ちることもないので、自分のリズムに合っていると思います。客足が少ないときに新メニューや既存メニューの改良に集中できるのが好きなんです。実は2005年の創業から数年後にテレビに取り上げてもらい客足が爆増したことがあったのですが、仕事リズムが破茶滅茶になったので二度とごめんです(笑)」
2025.05.28(水)
文=むくろ幽介
写真=志水 隆