この記事の連載
- 海と灯台プロジェクト #1
- 海と灯台プロジェクト #2
- 海と灯台プロジェクト #3
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約七十メートル下はいきなり濃い色の海! いよいよ展望台へ
続いて、展望台に出てみる。三六〇度、ほんとうに遮るものが何もない。風が強く、約七十メートル下はいきなり濃い色の海で、思わず「ひゃっ」と変な声が出た。吹きさらしのゴンドラの屋根に上ったかのように足がすくんで、手すりを握りしめたまましゃがみ込みそうになる。
手前の入江には黒々とした岩がそこかしこに突き出し、打ち寄せる白波を散りぢりに砕いていた。おそらくはもっと沖のほうにも、見えないだけで沢山の岩が沈んでいるのだろう。
水平線を見やり、桜川さんが言った。
「おかげで漁場としては豊かですが、船にとっては恐ろしい難所なんですよ」
野島埼と犬吠埼の間の暗い海を照らすため、勝浦灯台がどれだけ切望されていたか、その役割の重さが迫ってくる。
「でもほら、素晴らしい眺めでしょう?」
照川さんが海岸線を指さす。
「〈日本の渚(なぎさ)百選〉に選ばれている鵜原(うばら)・守谷(もりや)、鴨川、江見(えみ)……」
きれいに晴れていたから、ほんとうに遠くまで見渡せた。昨日、房総半島の最南端からこちらへ向かって走ってきた道筋のほとんどすべてが一望のもとだ。
「子どもの頃は地元の友だちと、あのへんの岩場にもよく潜ったの」
照川さんが、手すりから身を乗り出すようにして見おろしながら言った。
「どれだけ息が続くか競争したりしてね。海も緑も人も豊かで、冬は暖かなのに夏は過ごしやすくて。こんなところ、他にない。私はこの街が大好きなんですよ」
心の底から湧き出てくる言葉に胸を打たれた。
「航路標識協力団体」という名称を初めて聞いた。航路標識の中には、もちろん灯台も含まれる。
海上保安庁のホームページを見ると、こう書いてあった。
「航路標識の維持管理等の活動を自発的に行う民間団体等を『航路標識協力団体』に指定し、その活動を支援します」
「協力団体の指定は、要件を満たす団体を広く募集し、航路標識協力団体としての活動を適正かつ確実に行うことが認められる法人等に対して行います。これにより、海上保安庁と連携して活動を行う団体に位置付けられます」
勝浦市は、これに選ばれたそうだ。
灯台の維持に伴う工事、草刈りや掃除。灯台の歴史に関する情報を収集・保管したり、一般に向けたイベントを通じて知識の普及に努めたり、あるいは夜間のライトアップなどを工夫することで灯台を愛してもらい、同時に啓蒙活動を推し進めたり……。選ばれたからには、果たさなくてはならない役割がたくさんある。
初点灯から百年以上。
ずっと現役で周辺の海を照らし続けてきた灯台が、これからは、海辺の街の未来を照らす光にもなってゆく。
勝浦灯台(千葉県勝浦市)
所在地 千葉県勝浦市川津1090
アクセス 勝浦駅より徒歩で25分
灯台の高さ 21m
灯りの高さ※ 71m
初点灯 大正6年
※灯りの高さとは、平均海面から灯りまでの高さ。
海と灯台プロジェクト
「灯台」を中心に地域の海の記憶を掘り起こし、地域と地域、日本と世界をつなぎ、これまでにはない異分野・異業種との連携も含めて、新しい海洋体験を創造していく事業で、「日本財団 海と日本プロジェクト」の一環として実施しています。
https://toudai.uminohi.jp/
◎灯台を基に海洋文化を次世代へ
日本財団「海と灯台プロジェクト」では、灯台の存在価値を高め、灯台を起点とする海洋文化を次世代に継承していくための取り組みとして、「新たな灯台利活用モデル事業」を公募。この度、2024年度の採択15事業が決定しました。灯台×星空の鑑賞ツアー、灯台を通じた地域学習プログラム、灯台の下で開催する音楽フェスティバルなど、バラエティに富んだ内容となっています。詳しくは公式ホームページをご参照ください。
オール讀物2024年11・12月特大号
定価 1,500円(税込)
文藝春秋
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その土地の物語を読み解く
“灯台巡り”の旅へ
2024.12.20(金)
文=村山由佳
写真=橋本 篤
出典=「オール讀物」2024年11・12月特大号
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