ラストの予定だった78年の「BIG GAME」大阪球場公演

「見に来てくれた君たちに命をあげるよ!」と言わんばかりに、1曲入魂。

「両手を上げ、隣の人と手をつないでください。一緒に歌おう」

「セイリング」の合唱で、両手を上げる。心でファンの人たちとハンドインハンド。

 ああ、私は過去と未来が一緒になる瞬間にいる。

 1ミリでも近くファンのもとに駆け寄ろうとする姿に覚悟を感じた1978年の「BIG GAME」大阪球場公演。

 それもそのはず、実はこの年から後楽園球場が使用可能になり、かわりに、1974年から5年間開催された大阪球場コンサートは、この年で終了する予定だったのだ。そのため、副題も「バイ・バイ・パーティ大阪球場」という悲しすぎるものだった……。

 MCでヒデキは、「来年もやりたい」と言い、なんとしゃがみ込み、膝を抱え子どものように泣き出したのである。

「こんなにみんなが応援してくれ……うわーん!」

 やだ泣かないで~(泣)。大丈夫よヒデキ、ファンの熱意で、その後も大阪球場でのコンサートが続くから! 届かん声と分かりつつ、画面に向かい大丈夫ダイジョウブ、ドントクラーイなどと叫びながらサイリウムをオロオロと振るしかなかった。

 本当にこの人は、歌が、ファンが好きなのだ――。

「あなたとぼくのカーニバル」

「さようならー!」

 終演、ちぎれるような勢いで、何度も何度も客席に手を振る彼は、大好きな人の背中をずっと見送る、子どものようだった。

 こんなに全力で瞬間を生きる姿を見せられたことはない。きっと彼は楽屋でぶっ倒れている。「自分を愛してくれる人を喜ばせたい」。そのたぎる思いが、限界まで彼を走らせ、歌を届けさせたのだ。MCで、彼が「BIG GAME」というコンサートを、こんな言葉で喩えていたことを思い出す。

「あなたとぼくのカーニバル」

 あんなに広い野外コンサートでも、彼は「みんな」ではなく、「あなた」一人一人と祭りをしていたのだ。

 会場に明かりがつき、Zepp Nambaが2024年に戻る。

 サイリウムの青が、ぼんやりと滲んで見えて仕方なかったのは、老眼のせいだけではないはずだ。

 ありがとう、いい夏をありがとう――!

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田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2024.10.20(日)
文=田中 稲