ヒデキについていけないカメラワークもまた味
「BIG GAME」で驚くのが、ヒデキの走りっぷりである。イントロや間奏のあいだ球場を走り回り、もうすぐ歌が始まるギリギリで、スライディングをかましステージに戻りマイクを取りセーフ、というイチローばりのテクニックでも魅せてくれる。
当時は有線マイクなので、ヒデキが歌いながらガーッと移動するとヒヤヒヤするが、スタッフが別のマイクを用意しササッと渡すという神連携も拝める。
たまにヒデキの大暴れについていけず、カメラワークがオロオロするのもまた趣深い。ヒデキを見失い誰もいないところを映す、階段が意味もなく映る、ヒデキが乗ったゴンドラの半透明の底部分が延々映し出され、そこに映るヒデキの足の裏をしばらく愛でることになるなどなど。これも会場がいかにエキサイティングであったかの証!
我が推しながら怖くなる体力
さて、休憩を挟み、2本目のフィルムは1年さかのぼり、1978年8月26日に開催された「BIG GAME'78 HIDEKI」大阪球場公演だ。そして私は、「元気があれば何でもできる」というアントニオ猪木氏の名言を、ヒデキによって「ホンマや……」と確信することに!
登場からパワー全開、「フール・フォー・ザ・シティ」「朝日のあたる家」といった洋楽リスト、ザ・コンテナダンサーズとの移動ディスコも超全力。 そして特筆すべきは、興奮と恐怖のゴンドラタイム。クレーンが、ヒデキを乗せたゴンドラを高々と漆黒の空へ吊り上げていく――。
ゴンドラといっても要はちっちゃいちっちゃいカゴである。想像してほしい。ユラユラ空で揺れる小さいカゴの中で、『ジャガー』から『傷だらけのローラ』というヒット曲を歌い、ハイになったヒデキを(震)。身を乗り出し手を振る(カゴ傾く)。ゴンドラの縁に片脚を上げて歌う(カゴ傾く)。上半身を縁から出しブラーンと倒す(カゴむっちゃ傾く)! 同乗しているスタッフも怖いだろうに、必死で手を伸ばし、ヒデキのベルトを引っ掴む姿が健気で泣けた。
地上に降りてからも、球場を全速力で走り歌い、勢い余り応援席のフェンスをドドドドッとよじ上っていったときは、我が推しながら恐ろしさすら感じた。
しかも、どんな場所でも、どれだけ酸欠ヘトヘトの状態でも、歌声にブレなし・パーフェクトというミラクル。腹式呼吸どうなってるのヒデキーッ!
今、私が見ているのは、音楽の神が降臨している瞬間なのかもしれない!
2024.10.20(日)
文=田中 稲