「トイ・ストーリー」の罪悪感が蘇る

『ブルー きみは大丈夫』はまさに、子どもに忘れられたIFの話。彼らは、彼らのことが見える子どもを探さないと消えてしまう。そこで、主人公のビー(ケイリー・フレミング)が、IFが見える不思議な大人カル(ライアン・レイノルズ)と共に、子どもとIFのマッチングサービスを始めるのだ。

 モフモフのIF「ブルー」はトトロを彷彿とさせ、とても触り心地がよさそうだが、なんだか惜しいデザインのIFも多い。シャボン玉の泡のIF「石けんバブル」、緑色のスライムのIF「スライムボール」は、正直カワイイとは言えない。はっきり言ってしまうと雑なデザインである。しかしその雑さが、子どもの落書きから生まれた空想の友達っぽくて、リアルで泣けてくるのだ。

 しかもIFたちの声がとても感情豊か。吹き替えを見てみると、なるほど、マット・デイモンやジョージ・クルーニーなど大スターたちの名がズラリだ!

 イマジナリーフレンドが、子どもに忘れられる寂しさを語るシーンは、イタタタタ、胸が痛いよ、痛すぎる(泣)。この罪悪感、「トイ・ストーリー」を観たときの感覚と似ている。おもちゃの目線で描かれたあの映画は、子どもの頃、リカちゃん人形の髪の毛を鷲掴みにし、「がははは!」と振り回しながら遊んだ己の過去を後悔するのにじゅうぶんだった。

 「いくらガキだったとはいえ、私のした所業は許されるものではない……」と凹みまくった感覚が「ブルー」でも再び――。

 後悔と感謝が混ざりに混ざって涙腺をドカスカ突いてくる。溢れ出る涙を拭きながらエンドロールを観終わり、劇場が明るくなると、私はすぐ、自分の肩のあたりを見た。そして、何十年ぶりに話しかけてみた。

 いる? もしいるなら、聞いて。忘れててごめんよ。消えないで。

大人版IF?「オルタナフレンド」「タルパ」

 「ブルー」の監督、ジョン・クラシンスキー氏は最近まで「サム・ブレイス」というIFがいたという。作家の村田沙耶香さんは、イマジナリーフレンドが30人いるそうだ。BAILAでの、桐野夏生さんとの対談のなかで、イマジナリーフレンドが30人いることを話し、「存在を否定されると私の命が終わってしまう」と語っていたのが印象的だった。

 私もIFを復活させられないものだろうか。なにか困ったことがあると死んだ父を思い出し、話しかけてみることはある。朝ドラ『虎に翼』で、主人公の寅子が、つらいとき亡き夫の優三さんを思い出すあのパターンである。

 しかし、これはイマジナリーフレンドとは違う気がする。

 調べてみると、大人になってからもイマジナリーフレンドを持つ人はけっこういて、大人のIFは「オルタナフレンド」と呼ぶそうだ。もしくは「タルパ」という特撮ヒーローのような名前のパターンも出てきた。タルパは、1日1時間以上の瞑想を数カ月間続けることでやっと生まれる存在で、感触もあるのだとか。

 タルパでもオルタナでもいい。もう一度IFに会いたい。想像力には自信がある。思い立ったが吉日、子どもの頃対話した、背中に羽が生え、ピンク寄りのオレンジ色をしたスリップドレスを着た彼女を必死で思い出してみる。そして問いかけてみる。返事が返ってくる……気が……する……。しかしこれがうまくいかない。心のどこかで、

「自分が一人二役やってんなー」

 と冷静に自分でツッコんでしまうのだ。

 再会の道はまだ遠い。でも、いつか会える。きっといつか!

 映画『ブルーきみは大丈夫』は、大人が見たほうが刺さるかもしれない。いろんなことを思い出す。胸が痛くなるかもしれないが、必ず「ありがとう」という余韻がある。

 そのうえ、肩のあたりがふんわり温かくなり勇気が湧いたなら、あなたは本当にラッキーだ。

 後ろには、大切な友達がいる。

 そしてこう囁いている。「きみは大丈夫」――。

映画『ブルー きみは大丈夫』

2024年6月14日(金)より公開中

■監督・脚本:ジョン・クラシンスキー
■出演:ライアン・レイノルズ、ケイリー・フレミング、ジョン・クラシンスキー
声の出演:スティーヴ・カレル、マット・デイモン、エミリー・ブラント、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、オークワフィナ、サム・ロックウェル、ルイス・ゴセット・Jr 
■吹替え版声優:
宮田俊哉(ブルー)、稲垣来泉(ビー)、加瀬康之(カル)、浪川大輔(ビーのお父さん)、三森すずこ(ブロッサム)、高島雅羅(ビーのおばあちゃん)
[“空想の友達”の仲間たち※五十音順]
上田燿司(アンドロメダス3世)、大塚明夫(コスモ)、甲斐田裕子(オクト・キャット)、神谷浩史(スーパードッグ)、桐本拓哉(アイス)、
小山力也(スペースマン)、島﨑信長(マジシャン・マウス)、下野紘(スライムボール)、諏訪部順一(美術教師)、園崎未恵(ユニ)、
高乃麗(アリー)、津田健次郎(ロボット)、早見沙織(ガミー・ベア)、平田広明(サニー)、本名陽子(石けんバブル)、麦人(ルイス)、森川智之(バナナ)

幼い頃に母親を亡くした12歳の少女ビー(ケイリー・フレミング)は、ある日、おばあちゃんの家で、子供にしか見えない不思議な“もふもふ”ブルーと出会う。ブルーが友達だった子供は、今は大人になり彼の事を忘れてしまい、居場所が無くなったブルーは、もうすぐ消えてしまう運命に。少女は、大人だけどブルーが見える隣人の男(ライアン・レイノルズ)の力を借り、ブルーの新しいパートナーになってくれる子供を探すのだった。
https://blue-movie.jp/

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田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

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田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2024.07.04(木)
文=田中 稲