泉宮一華は、霊という存在に心底うんざりしている。

  奈良の「蓮月寺」という由緒ある寺に、代々高い霊能力を持つ霊能家系の長女として生まれながらも。

  そんな一華が臨床心理士を目指すキッカケとなったのは、中学生の頃に観たテレビ番組で、まさに臨床心理士が「幽霊は幻覚である」と強く説く様子を目にした瞬間のこと。

  それはたわいのないバラエティ番組だったけれど、一華はその発想に強い魅力と可能性を感じた。

  霊という存在を、あれほどまで迷いなく幻覚であると断言できたなら、どんなに気持ちが晴れるだろうと。

  同時に、──叶うなら、もう霊だの呪いだのと、世間一般で曖昧とされるものに振り回されることなく、皆と同じ常識と価値観の中で生きてみたいと、強く願っている自分がいた。

  それは、早くも途方に暮れていた人生に光明が差した瞬間でもあった。

  しかし。

  その頃の一華には、当然ながら、想像できていない。

  いずれ、カウンセリングルームに結界を張って霊を捕獲する未来がやってくることも、それ故にネットで「心霊相談専門の泉宮先生」という、まったく意図しない評価を得ることも。

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2024.04.30(火)