『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』『伝言猫がカフェにいます』などの作品が大人気の標野凪(しめのなぎ)さんが、文春文庫に初登場! 書下ろし小説『桜の木が見守るキャフェ』の舞台は、庭にヤマザクラの大きな古木が立つ〈キャフェ チェリー・ブラッサム〉。刊行を記念して、標野さんにお話を伺いました。
――現役カフェ店主でもある標野さんは、2019年に『終電前のちょいごはん 薬院文月のみかづきレシピ』でデビュー。その後『占い日本茶カフェ「迷い猫」』や「喫茶ドードー」「伝言猫」のシリーズなどを、発表されてきました。
たまたまそういう設定が続きましたが、シリーズ以外では、この『桜の木』でカフェやご飯屋さんを舞台にするのは、いったん区切りをつけようと思っています。『桜の木』は内容はもちろん、タイトル・装幀も含めて、いま自分のなかにあるものの集大成になりました。数えてみたら、ちょうど10冊目! そういう意味でも、特別な1冊になりました。
――人間関係に傷ついたり自分に自信をもてなくなった人が、偶然立寄った店で、店主からのちょっとした一言や不思議な出会いにそっと背中を押され、一歩を踏み出す……その温かくて癒される世界観が、多くの読者の支持を集めていらっしゃいますね。
これまでも、ヤギや猫が一人称で語りだすというユニークな設定がありましたが、今回はなぜ「桜」なんですか?
春に花が咲くといつも見に行く桜並木が、すぐ近所にあります。冬にそこを通りかかったとき、当然だけれども、何も咲いていない。でも、ああ、春になったら咲くんだよな、それって単純にすごいな、と思ったんです。
自分自身が年を重ね、母が高齢になったり父が亡くなったりしていく時間の流れのなかで、それまで花が咲いた桜しか見ていなかったのが、枝だけの桜に目がいくようになった。若いときの自分だったら、気づかなかったでしょうね。
花が散って夏を迎え、秋に葉が落ち、冬を越してまた春に咲く――その1年にわたる桜の物語が、“再生”という言葉と結びついて、書きたいと思ったのがきっかけです。
2024.04.25(木)