自分の強みについて、また、自分の将来について、優彩は考えるほどに袋小路にはまる感覚をおぼえた。自暴自棄になって、SNSの匿名アカウントで愚痴ったり、公園でやけ酒をあおってみたりと、荒れた日々を送っていた。

 そんな折、母と二人暮らしをしている自宅に、一通の封筒が届いた。

 幼い頃からずっと住んでいるので、DMの類いが嫌というほどに届く。ポストには毎日のようにチラシが投函されており、下手をすれば、見逃して、捨ててしまうところだった。気がついたのは、母から指摘されたからだ。

 ――旅行会社からなんて珍しい。あなた宛てよ。

 最初のうち、優彩は取りあわなかった。

 ――旅行か……縁のない世界だねぇ。

 ――でも、これ、招待状って書いてあるわよ。

 ――もう。今はそんなお金、ないに決まってるでしょ。

 笑って答えると、母は意外なことを言った。

 ――無料で行けるんじゃない?

 ――え? まさか。

 母は勝手に封筒を開けて、確認してくれた。

 ――うん、やっぱりそうよ。ご招待しますって。

 優彩は訝しがりながらも手にとり、内容をくり返し読んだ。

 上質な紙に印刷されていた、「あなただけのアートの旅にご案内します」という一行に、優彩は戸惑った。こんなにおいしいことが起こっていいのか。その分、悪いことが起こってしまわないか。

 梅村トラベル、という社名には聞き憶えがなかったが、ネットで調べると、都内の小さな旅行会社だとわかった。一応ホームページはちゃんとしていたし、思い切って電話で問い合わせてみると、担当者の応対は丁寧だった。

 なんでも、その会社では新しくアートの旅行を企画する予定で、実際に客を募る前にモニター調査を行なっているという。今回はそのモニター参加への誘いであり、終わってからサービスの感想や改善点についてのアンケートに答えるだけで、旅費のほとんどを会社に負担してもらえるのだとか。

 電話口で説明を受けながら、優彩はキツネにつままれた気分になった。どうして見知らぬ旅行会社が、こちらの住所を知っているのか。そんなに都合のいい話が、自分の身に起こるのはなぜだろう。最初に抱いた不安は膨らんだ。

2024.01.23(火)