「本当だ」
優彩が答えると、桐子は満足げに肯いた。
小さく窓を開けると、初夏の気持ちのいい風が流れこんでくる。
前方から見ると、半円形に積みあがっていた石の山は、横からだと古墳のように円と三角形の二パーツに分けられた。なだらかな坂だと思っていた部分は、むしろピラミッドによく似ている。不思議な石のオブジェは、見る角度によって別の印象を与え、なにかの暗号でも秘めているようだった。
リムジンバスは交通量の多い国道を、海の方にまっすぐ走りはじめた。
高いビルが増えてきた頃、県庁の近くのバス停で、何人かが降りていった。ふたたび桐子は口をひらく。
「香川県庁舎東館は、丹下健三による名建築としても知られます。ここからはちょっと見えづらいかもしれませんが、重要文化財にも指定されていて、建築ファンから愛されているんですよ」
桐子は、県庁舎の画像を見せてくれた。
神社の鳥居の組み方をいくつも重ねたような、重層的なデザインの、どしりと構えたビルである。今風のガラスを用いた軽やかな高層ビルとは違い、コンクリートや伝統的意匠を多用しているので、やけに迫力があった。
「たくさん名所があるんですね」
感心していると、桐子は「じつは」とつづける。
「香川県庁舎をデザインした丹下健三って、じつは広島の平和記念公園の設計をした人でもあって。ちなみに、さっきのイサム・ノグチも、公園内の慰霊碑の制作を依頼されていたんです」
「あ、原爆ドームの近くにあるんでしたっけ? テレビで見たことあります、アーチ型の石碑ですよね」
「それです。あれって、もとはイサム・ノグチがデザインしていたんですが、アメリカ人であるという理由で却下されたという経緯があったんです。そこでノグチの友人でもあった丹下健三は、そのことを残念に思い、もともとのデザインを生かした石碑を建てたそうですね」
優彩はさきほど目にしたイサム・ノグチの《タイム・アンド・スペース》について思いを馳せる。時間と空間を超えて、ともに高松市にゆかりのある二人の友情が、日本国内にしっかりと残されているのだ。
2024.01.23(火)