はぁ、と優彩は生返事をしてしまう。

 桐子は肩をすくめて、「すみません、急に真面目な話をしてしまって」と、黒髪を結いあげたうなじをさわったあと、にっこりとほほ笑んだ。

「難しいことは抜きにしましょう。桜野さん、招待状が届いたとき、戸惑いや疑問もあったかもしれませんが、正直ラッキーって思いませんでした?」

「へっ? まぁ、たしかに」

 気さくな問いかけに、思わず本音がもれる。

「それならば、余計な心配はせず、楽しんでいただければ、いいんです」

 とつぜん昔からよく知る友人のような砕けた口調になったので、優彩は面食らう。それでも、ツアーアテンダントと客という距離感を保っていた桐子が、打ち解けた態度を垣間見せてくれたことに、嬉しいと感じている自分もいた。

 ――はじめては一度きり。

 機内で隣に座った女性からもらった一言が、ふと胸にこだました。

ユリイカの宝箱 アートの島と秘密の鍵(文春文庫 い 112-1)

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文藝春秋
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2024.01.23(火)