亡くなってしまった女性側の目線で描いたラブソング

山口 さて、そろそろ作詞アナリストの妄想分析を聞きたいのだけど(笑)。

伊藤 この詞は、愛する人が亡くなってしまうという内容。この手の詞には、沢田知可子の「会いたい」や、平井堅の「瞳をとじて」などヒット曲もありますが、「TSUKI」がそれらの曲と圧倒的に違う所は亡くなってしまった側の目線なことですね。

山口 亡くなった恋人からの目線と言うと、「ゴースト/ニューヨークの幻」って映画がありましたね。

伊藤 そう、人はゴーストにでもならない限り、死んでしまってからの心情など無いんだから、これは残された側を慰めるための想像か、全くのファンタジーなんです。そして僕の頭に降りてきたのは……。

山口 きたね(笑)。

伊藤 8月15日の23時、青年は誰もいない公園のブランコに揺られながら、煌々と青光りする月をながめている。ヨレヨレのTシャツと短パン、靴は脱いで足元に転がしたまま背中を丸める姿は、砂漠を何日もかけて歩いてきたように乾ききっている。瞼はナミダで膨らんでいるが、零れてはいない。もし一滴でも零れたなら、それは青年の足元を凍った水たまりにしてしまいそうだ。公園のわきの県道はちょうどカーブになっていて、車が通るたびにそのヘッドライトが彼の後ろ姿をかすめる。それはまるで、絞首台に連れて行かれる前の人間のようにみえる。
 6時間前、高2の夏から付き合っている彼女から呼び出され、突然別れを告げられた。あまりに突然すぎて状況がのみこめず、冗談だと思って笑ってしまったくらいだ。しかし、彼女の真剣な表情に、彼女が本気だということに気づき、理由を聞いた。要は「好きな人」が出来たのだ。しかも、もう半年前から付き合い始めていて、その相手は彼女の職場の上司で18歳年上の既婚者だと聞かされた。すぐに相手の男に対して怒りが湧き、こう言った「そいつに会って話をつける。そんな奴にお前を獲られてたまるか!」。そうすると彼女は沸騰するように怒りを露わにして「やめて!」と言ったあと、今度は夏が冷めるほど冷やかに「彼は私を大切にしてくれているし、来年には今の奥さんと離婚して私と結婚してくれるって約束してくれた。私、彼と結婚するの。もし余計なことしたら私、一生あんたを許さないから」。
 それから5時間あまり、青年は彷徨う霧のように歩き回った。彼女との関係が終わったことを、何度も頭の中で繰り返し、もう悪あがきの説得も、ナイフの復讐も無いことを自分に言い聞かせた。そして、この公園の独りきりのブランコに辿り着いた。彼女に最後のメールを書く。「君が“かぐや姫”だったなんて全然気づかなかったよ。もう月に帰るんだね、さようなら」。  

山口 感動的! でも、映画のストーリーとは全然違うけどね(笑)。

伊藤 どこかフェアリーテイルを匂わせているけど、ハッピーエンド過ぎないリアルな世界が浮かびましたね。こんなドラマチックすぎない感じが、現代的ロマンシチズムっぽいんじゃないかな。イメージ的にアラウンド・トゥエンティの男女に刺さる世界になっているように感じますね。ここにしっかりと刺されば、もともと幅広い層のファンを持っているアーティストですから、ヒットする可能性大ですね!   

山口 よし!「TSUKI」は、オリコンウィークリーチャート1位になると予言しておきましょう!

伊藤 それ、乗ります(笑)。

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2013.12.26(木)