優しく穏やか。メスの発情に合わせ自然交配できる永明

 このようにパンダのメスが妊娠して子どもを育てあげるのは容易ではない。だが和歌山県にあるアドベンチャーワールドでは17頭が生まれ育った。中国国外で最多の繁殖実績だ。その立役者がオスの永明で、梅梅との間に6頭、良浜との間に10頭をもうけた。

 なぜ永明はこれほど繁殖できたのか。理由の一つは梅梅・良浜との相性のよさだ。もう一つは自然交配する能力に長けていること。優しく穏やかな性格なので、メスが発情で興奮していても、落ち着いてタイミングよく交配できる。梅梅と良浜が一般的な発情期と異なる時期に発情しても、永明は変化に気づいて交配し、世界的に珍しい冬の繁殖に至った。

 また、大阪と京都から新鮮な竹を調達できる立地、スタッフの豊富な知見なども繁殖に繋がっている。

 現在、世界のパンダの数は、野生下で推定約2,000頭、飼育下で約670頭。まだ絶滅の危険は去っていない。こうした状況にあるパンダを増やすことにも、永明は貢献している。

永明(えいめい)

1992年9月14日に中国・北京で生まれ、1994年9月6日に来日。中国で別のオスとの人工授精を受けていた梅梅(2008年死亡)が日本で生んだ良浜も永明のパートナーになった。中国が2019年11月に出したスタッドブック(国際血統登録書)によると、永明の孫は23頭、ひ孫は3頭。2020年11月22日に末っ子の楓浜が誕生した時の永明は28歳。自らが持つ、飼育下で自然交配に成功した世界最高齢の記録を更新した。現在30歳の永明は人間に換算すれば約90歳と推定されている。

●教えてくれたのは……

中川美帆(なかがわ・みほ)さん
パンダジャーナリスト

物心ついた時からジャイアントパンダが好き。毎日新聞出版『週刊エコノミスト』などの記者を経て、パンダに関わる各分野の専門家に取材している。23カ国・地域の40カ所のパンダの飼育施設を訪れた。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。

2023.09.18(月)
Photographs & Text=Miho Nakagawa

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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