2022年8月にryuchellさんとの婚姻関係の解消と「新しい家族の形」を発表したタレントのpecoさん。2023年7月12日にryuchellさんの訃報が報じられると、日本中に衝撃が走った。2023年6月7日に発売したCREA夏号「母って何?」では、ryuchellさんからのカミングアウトをどのように受け止めたのか、当時まだ4歳の息子にどのように伝えたのか、心の内を率直に語っていた。夏号に掲載のインタビュ―を全文公開します。(取材は2023年4月25日に行われたものです。)


胸を張って、息子に説明できる

モデル、タレントとして活躍するpecoさんは、公私にわたるパートナーのryuchellさんと2016年に結婚。2018年に第一子が誕生する。23歳で出産したpecoさんだったが、その4年後、ryuchellさんからセクシュアリティについてのカミングアウトを受け、婚姻関係の解消を選択した。

 ryuchellからのカミングアウトを受けた直後は、正直キッチンで泣くこともありました。でも、どんなにショックなことがあっても子育ては待ったなしなんですよね。クヨクヨしてる時間もないから、前を向くしかない。そういう意味でも、本当に子どもに助けられました。

 この先、ryuchellがどんな見た目になろうとも、胸を張って変化の理由を息子に説明します。大変なこともあるかもしれませんが、私たちは親としての覚悟と責任を持って息子を守り続けよう――そうryuchellと話してるんです。

 子どもをつくった時も、相当な覚悟の上でした。古い考えかもしれませんが、昔から絶対に順番は守りたい、結婚してからでないと子どもはつくりたくないという思いがありました。2人に何かあったとき一番つらい思いをするのは誰なのかと考えると、結婚前にペットを飼うことにも抵抗があって。とにかく軽々しい気持ちで子どもをつくるべきではないということは、息子にも伝えていきたいことのひとつです。

 今は共働きの方が多いですけど、私は子どもを持ったら基本的には絶対に家庭に入りたいと思っていて、交際中からryuchellともその話はしていたんです。私の実家は学校から帰ってくるとお母さんがいつも出迎えてくれていたので、鍵っ子の経験が一度もなくて。だから私も、子どもを持ったら同じような環境で育ててあげたかったんです。

 それは、「男は仕事、女は家事育児」みたいな昔の画一的な考え方に則っているわけじゃなくて、たまたまryuchellはお仕事が大好きで頑張りたいと思ってくれる人だったし、私は子どもを優先したいタイプだったというだけ。親の役割に性別は関係ないと思ってます。

 私のお母さんは、「大阪のおばちゃん」と聞いて想像する絵そのままの「THEおかん」です(笑)。いつも陽気で声も大きくて、たいがいのことは「そんなん、いけるいける!」(笑)。常に子ども第一で、お母さん自身のことは優先順位が下とかいうレベルではなく、順位の中に自分が入っていないのでは? ってくらい、私たち3きょうだいのことをいつも一番に考えてくれるんです。

 子づくりや子育てに関する考え方は、母の姿勢を受け継いでいると思います。一度もやりたいことを否定されたことがなくて、私のことをずっと信じて、応援してくれる。具体的に何か言葉を貰ったわけではないけど、そこに一番愛を感じます。

 そんな母なので、去年8月に皆さんに発表した「新しい家族の形」についても、「あなたがryuchellを受け入れたなら何も言うことはない」と。一方で、「自分でryuchellと結婚する決断をして、その上で親になることも決めたんだから、あなたの責任ももちろんあるよ」とも言われました。

2023.12.18(月)
Text=Natsumi Koizumi
Photographs=Wataru Sato

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

母って何?

CREA 2023年夏号

母って何?

定価950円

CREAで10年ぶりの「母」特集。女性たちにとって「母になる」ことがもはや当たり前の選択肢ではなくなった日本の社会状況。政府が少子化対策を謳う一方で、なぜ出生数は減る一方なのか? この10年間で女性たちの意識、社会はどう変わったのか? 「母」となった女性、「母」とならなかった女性がいま考えることは? 徹底的に「母」について考えた一冊です。イモトアヤコさん、コムアイさん、pecoさんなど話題の方たちも登場。