ダダは今、体もかわいくなりたいと思っているから
まもなく5歳になるという息子さんはジェンダーにとらわれることなく成長しているそうで、「親バカかもしれないけどいい子に育っていると思います(笑)」と、pecoさんは顔をほころばせる。
今も川の字で3人で寝ています。男女の関係がなくなっただけで、生活は何も変わりません。変化と言えば、ryuchellは日々かわいくなってますよね(笑)。前からメイクやネイルはしてたので、髪型がロングヘアになるくらいでは動揺しない息子ですが、さすがに体が変わるとなると動揺するかもしれないと思い、ryuchellと一緒にお風呂に入る前日に話したんです。
「お爪をかわいくしたかったら、お爪のお店に行ってかわいくしてもらうでしょ。髪の毛をかわいくしたいと思ったら、あなたもお店に行って髪を切ったり色を変えたりするでしょ。ダダは今、体もかわいくなりたいと思っているから、そういうところに行って体もかわいくしてもらっているんだよ」と説明して。
それと同時に、『いろいろ いろんな かぞくの ほん』という絵本を見せながら、「ダダは本当は男の人が好きだったんだけど、それを話すとママが悲しくなっちゃうと思って、ずっと秘密にしてくれてたのね。だからもうダダとママはプリンスとプリンセスじゃなくなったけど、何よりあなたがいちばん大切で大好きなことは変わらないよ」と、「新しい家族の形」を選んだ理由も一緒に話しました。

この前、車の中にryuchellが付けていたラブリーな、いわゆる女の子向けのデザインのストラップが落ちてたんです。それをお友だちが見つけて「これ何?」って聞いた時、息子が「あ、それは僕のパパのだよ」と言った後、続けて「僕のパパはさ、かわいいものが好きなんだよね。僕はかっこいいのが好きなんだけど」と言ってて。互いのことを認め合っててなんて素敵なんだろうと思いました。
洋服屋さんに行った時も、ワンピースと男の子向けの服を着たマネキンが隣同士で並んでたんですけど、息子がワンピースの方のマネキンを指して「こっちが女の子用だね」と言った後、「でも、男の子が着てもいいよね」とすかさず付け足してて、拍手しちゃった(笑)。それもこれも、ryuchellという存在が大きいと思います。

体の仕組みやジェンダーの話は息子が小さいころからしているので、「僕とダダは生理がないんだよね」と理解しています。でも、ryuchellがあれだけフェミニンになっても、呼び方は「ママ」ではなく「ダダ」で変わらないですね。本当にお父さんはかわいくなりたいんだな、というふうに理解しているように見えます。
はじめryuchellは、「自分のセクシャリティのことで息子が傷つくかもしれないから」と、世間にカミングアウトはしないでおこうと言ってたんです。でも、男の人が男の人を好きになるとか、性別を変えることに関しては何も恥ずかしいことはないと私は思うし、そこは私たちが胸を張って子どもに伝えるべき内容ではないかと思ったんです。むしろ真実を伝えないまま、ただ「夫婦じゃなくなります」とだけ発表して、根も葉もない噂や憶測で子どもが傷つくことだけは避けたかったし、それこそ息子に顔向けできないと思いました。
ryuchellがあそこまで見た目が変わったこともありますし、この仕事をさせてもらっている以上、絶対いつの日か息子の耳にも情報が入るならば、全部言うか、または一切何も公表しないかの二択しかないだろうと。「だったらもう言ってもいいんじゃない?」って。

2023.12.18(月)
Text=Natsumi Koizumi
Photographs=Wataru Sato
CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。