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 奥田逸子先生の存在を知ったのは、コロナ禍の情報番組だった。マスク生活でたるんだ顔を引き上げるエクササイズの指南役として先生が登場したのだが、専門がいわゆる美容分野ではなく、CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像診断装置)から不調の原因や病気を探り出す「画像診断」だというので気になった。

 「なぜに画像診断の先生が顔の体操を?」と不思議に思いつつ見ていると、先生は自身が考案したエクササイズを楽しそうに実演してみせた。その姿がとてもチャーミングで、いつかお話を伺ってみたいと思っていたところ、今年、『目元のクマ・たるみ解消法』(内外出版社)という気になるタイトルの本が発売に。早速、会いに行ってきた。

【目元のたるみ解消エクササイズ】1日1分、表情筋を鍛えて「老け見え」回避。画像診断の専門医が考案!


若さを画像で診断したら面白いんじゃないかなと

――先生は画像診断が専門とのことですが、なぜ美容に関する本を書かれるようになったのですか?

奥田逸子先生(以下奥田) そもそものきっかけは、15年ほど前の同窓会なんです。当時45歳くらいだったのですが、同級生たちと久しぶりに会って、「私って、もしかしたら他の人よりちょっと若く見えるかも?」なんて、自惚れたことを思ったんです。これを言うと、同級生たちに怒られるかもしれませんが(笑)。

 そこで、自分の顔をCTとMRIで撮って同世代の人の画像と比べてみたんです。「若さの秘密」を画像で診断できたら面白いんじゃないかと考えて。すると、筋肉の厚みに違いがあることに気づきました。

 さらに「特にどこの筋肉を鍛えるといいのだろう?」と思って、詳しく研究することにしたんです。若く見えるポイントがわかれば、自分ももっと若くなれると思いまして(笑)。

――具体的に、何をされたのですか?

奥田 顔の筋肉は表情筋と言って、皮膚の下に30種類以上が存在しています。例えば頬にある大頬骨筋の厚さはもともと3mmぐらいなのですが、年を取るとちょっとずつ薄くなっていくんですね。若く見える人は、年齢を重ねても筋肉がすごく厚い。一方で、老けて見える人は、筋肉が薄くて、厚い人と比べると2/3から1/2ぐらいなんです。

――面白いですね。

奥田 若い人からお年の方までの多くの顔のCTやMRIを分析しました。そうしたところ、顔のたるみに関わる皮下の構造物がはっきりとしてきました。さらに若い人とお年の方では、表情筋の厚さに大きな違いがあることも判明しました。これについて、2010年の「北米放射線学会」で発表しました。北米放射線学会は、毎年11月の終わりから12月までシカゴで開催される巨大な学会で、全世界から5、6万人が参加するんです。すると、賞をいただいて、取材も受けたんですね。「とうとう若さを診断できる時代がやってきた!」なんて大きく評価していただいて。それで、研究をより深めることにしました。

 さらに、行った研究として、表情が豊かな人で、よく動く部位の表情筋の厚みを計測しました。また、一方で表情が乏しく老けてみえる人の表情筋の厚みも計測しました。その結果、若く見える人は表情が豊かで、表情筋に厚みがあり、老けて見える人は表情が乏しく、表情筋に厚みがないことが科学的に判明したんです。

――その後、表情筋を鍛えるエクササイズを考案されましたが、それはどのように生み出されたのですか?

奥田 エクササイズに関しては、解剖学の知識が大きいです。私は2010年ぐらいから日本解剖学会にも所属していて、大学で教えてもいるのですが、解剖学では筋肉がどこについていて、どう動くのかや、筋肉の作用なども勉強するので、どの筋肉をどう使ったら効率よく顔が鍛えられるというのがわかるんです。

 画像で顔の筋肉を見て、「ここをしっかり動かすと若く見える」という筋肉を特定したうえで、今度はその筋肉を効率よく動かすにはどうしたらいいかを考えてエクササイズにしました。

 私のように解剖学的知識と画像診断によって「たるみの本質」にアプローチしている医師はほかにいなかったので、それがこのような本を書かせていただいている理由なのかなと思います。

2025.05.30(金)
取材・文=にらさわあきこ
撮影=釜谷洋史