絶滅のおそれがあるジャイアントパンダは妊娠から成長するまで、奇跡の連続。永明が偉大な父と称されるのには理由がありました。


赤ちゃんの体温を下げないよう母親が抱き続ける

 愛らしい姿からは想像しづらいが、ジャイアントパンダが無事に生まれて育つには多くのハードルがある。まず、自然交配(交尾)して受精できる期間は一般的に一年のうち1~3日だけ。さらに互いの好みや相性もあるので、必ず交配するとは限らない。

 交配して妊娠し、出産しても安心できない。赤ちゃんは体重約100~200グラムと、母親の1000分の1程度で生まれるので母親に誤って潰されることもある。赤ちゃんの死因の多くは圧死か母乳を飲めないことによる。

 しかも赤ちゃんは毛が十分に生えておらず、体温が下がってしまう。そのため母親が抱き続け、舐めて温める。赤ちゃんの体がピンクに染まるのは母親の唾液が付いたためで、愛情の証だ。授乳も大切。特に出産直後に出る初乳は細菌などから体を守る成分を含むので、赤ちゃんが飲まないと命に関わる。こうして母親は、ほとんど休まずお世話する。

 一方で育児放棄する母親もいて、明確な理由は分かっていない。

 また、パンダは約45%の確率で双子を生むが、通常は1頭しか育てない。1頭育てるだけで大変なためだ。見捨てられた赤ちゃんが野生下で生き延びるのは難しい。

 生後1カ月ほどになれば体が毛で覆われ、体温を維持できるようになる。そして1歳半~2歳ごろに母親と別れる(父親とは最初から一緒にいない)。パンダは群れをつくらず、縄張りの中で単独で生きる動物だ。

2023.09.18(月)
Photographs & Text=Miho Nakagawa

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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