「CREA」2023年夏号は、10年ぶりに「母」をテーマにした特集号です。

女性たちにとって「母になる」ことがもはや当たり前の選択肢ではなくなった日本の社会状況。政府が少子化対策を謳う一方で、なぜ出生数は減る一方なのか? この10年間で女性たちの意識、社会はどう変わったのか? 「母」となった女性、「母」とならなかった女性がいま思うことは? 徹底的に「母」について考えた一冊です。

CREA 2023年夏号

母って何?

特別定価950円

 CREA WEBでは、「CREA」2023年夏号のコンテンツの一部を大公開します!


 「母性があふれる人」と称賛したり、「あの人には母性がない」と批判したり……。どこか曖昧に、都合よく使われがちなこの言葉は、一体何なのか。小児精神科医・脳科学者の内田 舞さんが語ります。


母親になると、必要なことだけを考える脳になる

 しばしば美しいもの、尊いものとして語られ、女性の本能とまで言われてきた「母性」とは、いったい何なのでしょうか。日本では特に、母親に負わせる責任が多く、それが「母性」という言葉に詰め込まれていますね。

 生物学的に考察すると、女性は子どもを産むと、脳ではある変化が起こります。私たちの脳内では、大脳皮質の神経回路に電気信号が伝達されることで思考や記憶が作られるのですが、この神経回路が少し減少するのです。

 それでは思考力が落ちてしまうのではないかと心配になりますが、脳の神経回路は可塑性があり、私たちが成長するにつれて増えたり減ったりするものなのです。例えばガーデニングをする際、植物の成長のためにあえて小さな芽を間引いたり、要らない枝を落としたりします。これを「プルーニング」(Pruning/剪定)と言いますが、脳もそれを行っていて、必要な回路だけ残し、神経回路をいわば“最適化”しているわけです。

 母親になると、それまで気にしていたことのすべてに思考力を使っていては、およそ子どもを守り、育てることなどできません。だから優先順位の低いことは思考しなくてもいいように神経回路が剪定されるものと考えられます。ほかの思考回路を断ってまで子どものことを優先して考えるというのは、まさに社会が求める「母性」のイメージではないでしょうか。

 では、脳のプルーニングは母親だけに起こるのかというと、実は父親にも起こります。子どもが生まれた男性と生まれていない男性の脳を比較すると、子どもが生まれた男性のほうがプルーニングが進んでいたという実験結果が出ています。父親だって、ほかの思考回路を断ってまで子どものことを優先して考えるのです。

2023.06.07(水)
Text=Atsuko Komine

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

母って何?

CREA 2023年夏号

母って何?

定価950円

CREAで10年ぶりの「母」特集。女性たちにとって「母になる」ことがもはや当たり前の選択肢ではなくなった日本の社会状況。政府が少子化対策を謳う一方で、なぜ出生数は減る一方なのか? この10年間で女性たちの意識、社会はどう変わったのか? 「母」となった女性、「母」とならなかった女性がいま考えることは? 徹底的に「母」について考えた一冊です。イモトアヤコさん、コムアイさん、pecoさんなど話題の方たちも登場。