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 まるで、上質の喜劇を観ているようだ。どこか懐かしくて、とても愛おしい家族の風景が目に浮かぶ――。約3年前に刊行され、軽やかな文体で、子育てに奮闘する日常をユーモアたっぷりに綴ったエッセイ『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』の続編『水野美紀の子育て奮闘記 今日もまた余力ゼロで生きてます。』が9月20日に刊行された。

 子育てエッセイと聞くと、同じように子育てをしている人が読むものだと思う人がいるかもしれないが、水野さんの描く文章は、子育て経験がない人が読んでも面白い。一つの生命が誕生し、成長していく過程にワクワクさせられ、生きることは格闘することだと思い知らされるのだ。

» 【後篇を読む】「最初は大変すぎて覚えてない」俳優業と子育てを両立する水野美紀のライフスタイル


30代半ばまでは、毎日が仕事優先

「一冊目を出版したとき、トークイベントを開催したんです。いらっしゃる方たちは、私と同世代の女性が多いのかなと想像していたんですが、意外と男性も多かったし、私の親世代の方がご夫婦でいらしていたりもしました。子育て中のご夫婦がわざわざベビーカーを押してまで足を運んでくださって、親世代の人たちからは、『懐かしく読みました』と言っていただけて、嬉しかったですね」

 子育てを経験したことのない人にとっても、「親はこんなふうに頑張って育ててくれたのかな」と想像し、子供時代に思いを馳せることができる。さすがは舞台の脚本も手がける水野さん、登場人物全員がイキイキと魅力的で、誰もが自分に近い視点で読み進められる。

 続編である『水野美紀の子育て奮闘記 今日もまた余力ゼロで生きてます。』は、子供が成長することによって、親子ともども、社会との関係性がより複雑に、強固になった。妊娠から2歳までの約3年間を描いた一冊目より、二冊目はお子さんも成長し、“発話”の面白さも増して、水野さんの仕事場での描写も増えた。“余力ゼロ”なのは、水野さんがそれだけ、毎日を全力で過ごしているということなのだろう。

 俳優としての魅力もさることながら、母親として日常と格闘する姿は、“人間力のカタマリ”のようで頼もしいが、実は水野さんは30代半ばまでは、いわゆる“仕事人間”だったという。

「私は、10代で仕事を始めたんですが、当時の芸能界は、今よりもずっと、10代の恋愛に厳しかった。とくに私のように地方から出てきたパターンだと、『仕事で成果を出す前に彼氏を作ったりしたら、その時点で女優としてはもうおしまい』というような、暗黙のプレッシャーがあった気がします。

 でも、いくら仕事を頑張っても、『これをやればうまくいく』というセオリーなんて何もない仕事だから、無我夢中で試行錯誤を繰り返すことしかできなかった。

 本当は、舞台に憧れてこの世界に入ったんですけど、当時は連ドラが全盛だったので、そこでいい役をもらうのが目標になっていました」

2022.09.27(火)
文=菊地陽子
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=面下伸一(FACCIA)
スタイリスト=山下友子