この記事の連載

10代で山に魅了され、「山で生きたい」と願ったものの、既存の職業ではしっくりくるものが見つからず、自ら新しい道を切り拓いた秋本真宏さん(31)。株式会社山屋を立ち上げ「山のなんでも屋さん」として活躍しています。

多い時は年間300日を山で過ごしたという秋本さんに、「山で過ごすと気持ちがいい理由」を教えていただきました。

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町に住む人々の安全も本当の意味では守れていない

――近年増えているという防災のお仕事について教えてください

 いま日本には、1年とか10年に1回しか人が入らないような山林が増えています。日本の山は木がびっしり生えているので、空から見ても何もわからない。山の奥がどんな状況になっているか誰も把握できておらず、知らないうちに地滑りのリスクが高まっているような山も多いんです。山の下の町に住む人々の安全も、本当の意味では守れていない状況だと思います。

――富士山を3Dスキャンをしたり、山の樹木の太さを調べたりする仕事は、一体何のためにやっているのか不思議に思っていたのですが、山の状況を知るという目的があったんですね。

 なかなか想像しづらいですよね。富士山の3D計測を行ったのは2年前で、あの年の富士山の全体、特に人の安全に関わる登山道などの状況を精密に記録しておくことが目的でした。その記録があれば、大雨の後や雪の時期を超えた後にどう状況が変化したか、すぐに察知することができます。

――町にいると災害が起こるまで、山を意識することはなかなかありません。

 はい。ダムや水源のモニタリングカメラの設置などもやっています。町にいると水が止まるまで気づかないことが多いですが、じつは止まる前の段階でやるべきことが沢山あるんです。普段山に関心のない方が、遭難事故や災害が起きた時に山を意識すると、山に対してネガティブな感情しか持てないですよね。ですからその前に、山を愛する僕らが楽しみながら山で働いて、それが町の暮らしの安全にも繋がっていたらいいなと思います。

2023.06.03(土)
文=CREA編集部
撮影=鈴木七絵