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 「歩荷」という仕事を知っていますか?

 山小屋の食材は備品はもちろん、登山道の標識や登山道整備用の木材、通信設備の工事に必要な道具などを、じつは今も人間が背負って登って運んでいるのです。

 10代で山に魅了され、「歩荷(ぼっか)」を軸に動植物の調査、山岳パトロール、撮影サポート、登山道整備などの仕事をしながら、一年の大半を山で過ごすようになった秋本真宏さん(31)。株式会社山屋を立ち上げ「山のなんでも屋さん」として活躍する秋本さんに、「歩荷」という仕事の不思議な魅力を聞きました。

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山に登り荷物を運ぶ「歩荷」という仕事

――「歩荷」という言葉自体、耳慣れないワードですが、普段はどんなお仕事をされているんですか?

 株式会社山屋のHPの業務の取り扱いのコーナーをちょっと覗いてもらうと、もうあらゆることが書いてあって、一体何なんだと思うかもしれないんですけど、要はもう何でも屋なんですよね。山で発生する困りごとは何でもお手伝いする仕事をしています。その中でも一番多くご依頼をいただくのが、山に登って荷物を運ぶ「歩荷」という仕事です。

――一番よく運ぶものは何ですか?

 岩、ですね(笑)。日本中どこでも、登山に行くと大抵は登山道がありますよね。登山道って誰かが直したり作ったりしないと、どんどんなくなっていくんですよ。雨も多いし、人も通るので。なので、僕らは登山道を整備する時に呼ばれることが多くて。階段の敷石や、道を舗装するためのコンクリートの原料、建設資材は全部人間が担いで登って運びます。

――ものすごい重量に思えますが、人間が自分の足で運ぶんですね。

 はい。建設会社さんや施工管理会社さんから、「登山道を作るから歩荷さんを集めてくれる?」というようなお仕事をよくいただくのですが、そういうときはまず「だいたいの重さを教えてもらっていいですか」と聞くんです。すると「うーん、2トン」って(笑)。しびれますね。一人が一度に30~50キロ背負うとして、何人で行くか次第ですが……。

2023.06.03(土)
文=CREA編集部
撮影=鈴木七絵