この記事の連載

100キロの荷を背負う屈強な「歩荷さん」も

――ボタン一つで何でも届く時代に、人が徒歩で物を運んでいる、という光景に不思議な魅力を感じてしまいます。近年はドローンやヘリも発達してきていますが、歩荷のお仕事は、近い将来、消えてしまうものなのでしょうか。

 いずれ消えゆく仕事である、というはっきりした認識も持ちつつ、なかなか消えないという現実もあります。というのは、ヘリコプターで山に荷物を運ぶとなった時に何が起きたかというと、ヘリが荷物を下ろせるように、山中にヘリポートを作る歩荷の仕事が発生したんです。また、ドローンが出てきた時には何が起きたかというと、通信技術が発達しても、尾根や山脈が連なって電波が遮断されるとコントロールできないじゃないですか。なので、ドローンを山に運び、組み立てて飛ばす、という歩荷の仕事が発生しました。何が起きても最終的に人が運んだ方が良いものって、残っているんですよね。山は地形が複雑ですし、人間は衝撃などいろんなことに配慮できるので。

――現在、歩荷さんは全国にどれぐらいいらっしゃるんですか?

 歩荷をやったことある人は沢山いると思いますが、いま歩荷を仕事として請け負っている、という人は100人いるかいないか……ぐらいだと思います。本業が別にある方が多くて、山岳ガイドとかクライマーとか、トレーニングの一環も兼ねて歩荷の仕事をしている方が多いんです。ただ、伝統的に尾瀬国立公園のエリアには、歩荷をメインの生業としている方がいます。尾瀬の歩荷さんはすごく強くて。100キロとか背負ったりするんです。歩荷が憧れる歩荷ですね。年齢は、20代の前半から50歳前後の方が多いでしょうか。でも、50歳を超えて歩荷を続けている方もいます。

――100キロ……信じられません。一年の大半を山で過ごしているそうですね。

 今は山屋の経営に生活の軸足を移しているので、東京にいる時間が長いのですが、2021年頃までは、1年の300日は山にいて、あとはもう山から山を移動していました。借りていた長野のアパートには、年間20日ぐらいしか帰らなかったですね。

2023.06.03(土)
文=CREA編集部
撮影=鈴木七絵